描けぬ将来、訪日激増 ネパール留学生、ひずみも
ヒマラヤの最貧国ネパールから日本留学を目指す若者らが6年間で約12倍に激増、留学先の人気でトップとなっている。内戦や大地震からの復興が遅れる自国では将来を描けず、働きながら進学する夢を抱いて日本に目を向ける。首都カトマンズには語学学校や仲介業者が乱立。資力のない学生に日本での難民申請を勧める業者もあるとされ、ひずみも生じている。
▽中間層
「日本ではごみの分別が必要です」「はい、先生」。カトマンズ郊外の日本語学校の授業で、若者約50人の日本語が響く。2年前の大地震で弟=当時(21)=を失った生徒のビマラ・ギリさん(26)は「専門学校で観光ビジネスを学び、故郷の村でガイドをしたい」と真っすぐな目で話した。
約300人が学ぶ同校のシャキャ校長(43)によると、英語教育を受けた富裕層は欧米に留学し、貧困層は中東へ出稼ぎに出るのが一般的。日本を目指すのは「150万円程度の準備金を用意できる中間層」が中心で「学費や生活費を(規定で留学生に認められる)週28時間のアルバイトで賄えるため人気」という。
▽思惑一致
ネパールでは2006年の内戦終結後、政党対立で政権が頻繁に交代。産業は発展せず、地震からの復興も進まない。人生の転機を留学に求めるネパールの若者と、少子化や中国人留学生の伸び悩みに直面する日本の受け入れ側の思惑が一致している。
「留学生1人当たり15万ネパールルピー(約16万円)の仲介料を得る」と、ある業者。カトマンズには「日本での就労保証」などの看板が並ぶ。日本語学校には優良校も教師不在校もあり、全部で数百カ所とも。教育省などによると、15年度の留学希望者は3万696人で11年度の約2・6倍に上り、うち日本は9457人でオーストラリアや米国を抑え首位だった。09年度は758人で、6年で12倍以上に増えた。
▽難民申請
留学生は日本に渡ると、コンビニや弁当製造などの仕事をしながら日本語学校で学び、その後専門学校や大学を目指す。だが大手仲介業者のアミル・リビさん(33)は「週28時間のアルバイトでは次の進学先の学費を賄えず、隠れ就労をする学生がいる」と指摘する。 日本の法務省によると、15年の国別の難民申請者ではネパール人が最多、16年も1451人で2位だった。申請が認められれば就労権拡大の可能性が得られることが背景にあるとみられ、在日ネパール大使館は昨年12月、「仲介業者が一部留学生に難民申請を利用した就労を勧めている」と本国に報告した。
リビさんは、日本語能力が不十分な学生は不正に手を染めやすいとして「ネパール本国での事前教育が大事だ」と訴えている。(カトマンズ共同=高山裕康)
ネパール留学生 ネパールは中国とインドに挟まれた内陸国で人口は約2900万人。1人当たり国民総所得(GNI)は730ドル(2014年)。教育省によると、日本留学希望者は近年急拡大。日本学生支援機構によると、日本に住む留学生の数は15年5月時点で中国、ベトナムに次ぎ3位。専門学校などを経て企業に雇われ、日本で就労する例も多い。(カトマンズ共同)