「世界の工場」苦境に 広東省深センで人件費上昇
「世界の工場」へと急成長した中国を象徴する大都市、広東省深センの製造業が苦境に直面している。人件費の低さという強みが賃金の急上昇で薄れたからだ。先端産業の強化という国家戦略の先導役へと変身する道を模索している。
▽最新鋭ドローン
農薬を自動で散布する機種や、高画質の4K画像を撮影するモデルも──。民生用の小型無人機「ドローン」で世界最大手のDJI。深センの本社には、最新鋭のさまざまなドローンが並んでいた。
2006年創業で、社員は約6千人。同社は「深センに集まった革新的な人材が、新しい分野であるドローンの技術を発展させた」と説明する。深センの新興企業の代表格として「世界で最も潜在力のある企業の一つ」(中国の当局者)とも言われている。
▽漁村から大都市へ
小さな漁村だった深センは、中国の実権を握った故トウ小平氏が改革・開放路線を始めて間もない1980年、経済特区となった。外資の導入により、北京、上海などと並ぶ大都市に発展。通信大手の華為技術(ファーウェイ)など中国を代表する企業も生まれた。
深セン周辺の広東省内にも日本など外資系の自動車や電機メーカーが進出し、製造業の世界的な集積地となっている。
だが深センで事業展開する企業は人件費の高騰に悩む。深セン市の正社員の最低賃金は2015年に月2030元(約3万4千円)と、6年で倍増した。事務機器の部品を製造する日系企業の幹部は「家賃も上がり、採算の維持が難しい」と漏らす。人件費の安い内陸部や東南アジアに工場を移す動きが表面化。経営破綻も多く報じられている。
▽試金石
市当局者は「深センの土地は限られており、全ての産業を集めるのは難しい」と話し、バイオや航空宇宙など付加価値の高い産業の育成に力を注ぐ考えだ。外国人の居留許可を取りやすくして補助金も支給するなど、人材確保を強化している。
中国政府も産業の高度化やベンチャー企業育成を国家戦略に掲げている。李克強首相は16年10月に深センを訪問。米アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)や、DJIなど中国企業の首脳を招いた討論会で「起業と革新にこそ、中国の潜在力がある」とげきを飛ばした。
日本貿易振興機構海外調査部の島田英樹氏は「深センは中国で新しいことを始める実験場の役割を担ってきた」と指摘する。DJIに続く「有望株」が次々に生まれ、深センが再び発展の先頭に立てるのか。中国の産業全体の今後を占う試金石になっている。(共同)