指導者の資質
バス乗っ取りめぐる外交
アキノ大統領就任から3年以上が経過したが、香港とフィリピンの関係は冷えたままだ。中国の特別行政区とは言え、最も近い「隣国」だというのに、誠に残念である。南シナ海の領有権問題をめぐる、中国に対する大統領の一貫した態度も同様だ。
外交はアキノ政権にとって悩みの種であった。対米関係を優先するあまり、比がアジア域内で孤立してしまったことは否定できない。
香港が最近、経済制裁を警告したのも「個人の責任を国家が負うべきではない」とする大統領の愚かな立場に起因する。2010年8月に香港からの外国人観光客8人が射殺されたバス乗っ取り事件は、国家警察の無能さが露呈しなければ起きなかったはずだ。
香港の行政長官は話し合いを求めてきた。しかし、それを拒否したアキノ大統領は、この悲劇の責任を負わなければならない。公式謝罪と遺族への賠償を求め、香港は経済制裁という最後通告に打って出たのだ。
大統領は、人質となった犠牲者や命を落とした犠牲者の遺族の立場になって考えることはできないようだ。犠牲者に対する公式謝罪と賠償を実行すれば、この国のあるいは現政権の威信を保つこともできるだろう。
人質救出に失敗した警察の失策は赤恥として世界に知れ渡るところとなった。現政権は国際社会の信頼回復に努めなければならない。いずれにしても、全世界の捜査関係機関に、人質救出作戦の最悪の例として刻まれ続けるだろう。政府高官や国家警察が誰一人として制裁を受けていないのは、もっと由々しき事態だ。
大統領は、犯人の故メンドーサ元警部だけの責任に押し付け、自身の否を認めない。過ちを甘んじて受け入れることは、大統領に欠けた指導者としての資質だ。(7日・トリビューン)