ハロハロ
女優、淡島千景の死去を聞いて小津安二郎監督の「早春」(昭和31年)のビデオを引っ張り出した。「戸田家の兄妹」と並んで好きな小津作品だ。主演の淡島は当時、すでにトップスターで、キャストも共演の池部良より上。倦怠期の人妻を魅力的に演じている。小津監督は原節子を使って「晩春」「麦秋」「東京物語」などで国内の各賞を獲得、すでに松竹の大御所だった。
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原節子後、監督は次々と各社の看板女優を起用する。淡島のほか、岸恵子、有馬稲子、山本富士子、司葉子、京マチ子、岩下志麻……。
「早春」は小津作品の中で不倫を取り上げた異色作である。蒲田から丸の内に通う勤め人の主人公(池部)は通勤仲間のOL(岸)と一夜を共にする破目になる。浮気に勘付いた妻の淡島は夫の元を飛び出してしまう。
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五反田界隈の横丁でおでん屋をやっている母親役の浦辺粂子が抜群の存在感を見せる。あっぱっぱ、シミチョロ、いかにも下町風おっかさんで、夫の所へ戻るよう娘を説得する。「いつまでも折れないと取り返しのつかないことになりますよ」。競輪が好きらしく「確実というから8レースの4│4買ったら本命が来ちゃった」と娘にこぼしたりする。小津作品では杉村春子はじめ脇役女優がいつもスパイスを利かせているが、とぼけた浦辺とキレのいい淡島、母娘の掛け合いの妙に久々、小津芸術を堪能した。(紀)