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9月12日のまにら新聞から

ハロハロ

[ 575字|2011.9.12|社会 (society)|ハロハロ ]

 山本周五郎といえば、市井に生きる庶民や流れ者を描いた時代小説や、歴史もので知られるが、山本に未完の官能小説があると聞いて驚いた。彼の作風では考えられなかったからである。かつて大手出版社で、山本の担当だった大河原英興氏(現横浜ペンクラブ会長)に久しぶりに会った際に聞かされた。山本が死ぬ1年余前に「うまく書けない。新しいのを書くから破いて捨ててくれ」と、書きかけの草稿を手渡されたのだという。

 草稿の表題は「八十七本」。江戸で屈指の植木職人が酒と女に溺れてゆく。頼まれて植えた87本目の植木が気に入らず、依頼主の屋敷に忍び込んで切り落とすという筋書きだったらしい。大河原氏が自宅の書斎を整理しているうち、草稿を見つけ昨年末、横浜・山手の神奈川近代文学館へ寄贈した。私蔵するより多くの人に見てもらいたい、という気になったとか。

 山本は生前、直木賞をはじめ全ての文学賞の受賞を辞退した。大河原氏によると、「八百屋や魚屋が店の品物が売れたからといって、客以外の人間から褒美をもらういわれはない。それと同じじゃないか」が口癖だったという。かなりの頑固者だったようだ。東京大空襲の日にガンで夫人を亡くし、自宅の筋向かいに住んでいた女性と再婚、横浜に転居した。久し振りの一時帰国の折り、旧知のペンクラブ仲間と官能小説談義で盛り上がった。(邦)

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