「真実」の検証を
大虐殺事件被告の変心
ミンダナオ地方マギンダナオ州で約2年前に起きた大虐殺事件で殺人罪に問われたサルディ・アンパトゥアン被告=前イスラム教徒自治区(ARMM)知事=が、検察側証人となって真実を明らかにするという。これに対し、デリマ司法長官は強い拒否反応を示したが、果たして拒否は首謀者訴追という正義の実現に寄与するのだろうか。
大虐殺の首謀者の1人とされる人物の「変心」をいぶかる司法長官の気持は理解できる。また、同被告の証言申し出をめぐる政治的状況やマスコミ報道も、証言を認める方向には進んでいない。比大学法学部のロケ教授などは、同被告変心の背景に、現政権内派閥の「バライ派」と「サマール派」の争いがあると指摘し、同被告証言を利用しようとする「露骨かつ無責任な政治的思惑」を非難している。
しかし、真の首謀者訴追と虐殺再発の阻止という大義のため、サルディ被告に対する嫌悪感や偏見を一時的に捨て、その言葉に耳を傾けても良いのではないだろうか。
前代未聞と言える大虐殺は、アンパトゥアン一族を率いる同被告の父親、アンダル元マギンダナオ州知事の承認なしでは実行できなかったと推察されるが、同元知事の有罪立証に足る証拠を検察側がつかんでいるとは思えない。さらに、これまで確保された目撃者証言も、さまざまな圧力によって覆され得るのだ。
このような状況にあるからこそ、現政権は、父親のアンダル元知事に背を向けて「真実を語る」というサルディ被告の申し出をむげに拒んではならない。報道を通じて伝わる同被告の話には、現在のところ新しい事実は含まれていないが、これは検察側との減刑交渉を有利に進めるためだろう。まずは、同被告の語る「真実」を聞き、正義の実現という真の目的に利用できるか否かを検証すべきだ。(14日・インクワイアラー)