ハロハロ
集団帰国したフィリピン残留日本人二世の記者会見で、生い立ちを尋ねられた七十三歳の女性が突然、「見よ東海の空あけて……」と軍歌「愛国行進曲」を歌いだした。一章節を一気に歌い終わると、「この歌は今でもしっかり覚えている」とはっきりした口調で応答した。ダバオ市にあった日本人学校で学んだが、父親は太平洋戦争中に死亡、四人の兄弟も戦後、逃避生活中に食糧難から次々と餓死したという。
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帰国直前に父親の戸籍が見つかった六十四歳の女性は父親の故郷、鹿児島を訪れ親族と対面した。出迎えた父親の弟と抱き合い、父親の遺影にすがり付いて泣いた。同行した支援者によると、女性は「戦後、父親に会いたいと思って生きてきた。墓参りができてこんなにうれしいことはない」と感激していたという。幸せだった家族は戦争で引き裂かれ、父親は日本に強制送還され死亡した。
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比残留日本人二世の集団帰国は今回で三陣目になる。民間支援団体の身元調査で、これまで八十三人が戸籍記載申し立てを済ませた。しかし裁判所から許可が出た二世はまだ七人にとどまっていいる。一時帰国者は滞在中、国会で議員連盟代表に直訴したり、上智大、早稲田大で開かれた公開講座に参加、比残留日本人の実情を訴えた。高齢化が進み、今後は時間との勝負になる。(富)