「日刊まにら新聞」ウェブ

1992年にマニラで創刊した「日刊まにら新聞」のウェブサイトです。フィリピン発のニュースを毎日配信しています。

本日休刊日

11月19日のまにら新聞から

カラオ洞くつ観光地区

[ 1269字|2006.11.19|社会 (society)|名所探訪 ]

ルソン有数の鍾乳洞群

 巨大な鍾乳洞に差し込む太陽光線によってほのかに浮かび上がる教会内のベンチのような構築物の群れ。その神秘的な写真を掲載した観光パンフレットに誘われて、ルソン地方カガヤン州ペニャブランカ町にあるカラオ洞くつ観光地区を訪れた。フィリピンを代表する鍾乳洞群の一端に触れる貴重な旅になるだろうと期待して。

 首都圏ケソン市にある長距離バス会社のターミナルから夜行バスに揺られること十二時間。ルソン島東北端を占めるカガヤン州の州都、トゥゲガラオ市に到着する。タバコの大産地として有名なこの地域は、スペインが早くから比植民統治の本拠地とした場所で、マニラ、セブ、ナガ(ビコール地方)に次いで四番目となるヌエバ・セゴビア市という行政区を現在のトゥゲガラオ近郊にあるラルロ町に置いた。

 ある時、この地に大火災が発生し、イバナグ族の住民たちが「トゥゲ、トゥゲ(火事)」と騒いでいたところ、やはり一緒に住んでいた多数派民族のイロカノ族が「ガラウ、ガラウ(移動せよ)」と叫んだ。それを聞いたスペイン人がこの場所をトゥゲガラオと呼んだ、という民話が今も残っているそうだ。

 トゥゲガラオ市からトライシクルで四十分ほど走るとペニャブランカという農村にたどり着く。トライシクルを降りてピナカナウアン川の川べりに向かうと、木製ボートがいくつも並んでいる。子供たちが船頭として働いているのに驚いた。そこにいた十三歳の少年にガイドを頼んで、船に乗せてもらう。ボートは目と鼻の先にある対岸のカラオ洞くつに続くコンクリートステップに接岸。二百段ほどのステップを登り、大きな洞くつの入口を入ると、あのパンフレットで見た教会の信者席のようなベンチが並んでいた。

 この鍾乳洞で一番不思議な風景はベンチのさらに奥にあった。高さ四、五メートルほどの巨大なカエルのような岩があり、上方の穴から降り注ぐ太陽光線や水滴などを受けながら、緑か茶色のような不思議な色で発光していたのだ。鍾乳洞の白っぽい石灰石の大きなつららに囲まれたこの巨大カエルの岩は原始の昔から少しずつ隆起しているようなイメージだった。

 この観光地区には、カラオ洞くつ以外にも、大小三百以上の洞くつ群がある。有名なのはコウモリ洞くつ。夕方六時前になると決まってコウモリの大群が洞くつから飛び出し、辺りの上空や森林が真っ黒に変わるといわれる。また。国内最長といわれるオデッサ洞くつ、アイスクリームパーラーや洗礼者ヨハネなどさまざまな形をした自然の造形物であふれるサンカルロス洞くつなどである。

 観光省トゥゲガラオ地方事務所職員のセルソ・トゥリガンさん(57)はこの神秘のカラオ洞くつについて意外な事実を教えてくれた。「実は、あの教会ベンチは三十年ほど前に当時の州知事が観光客向けに作ったんだよ」。現地のアウトドア・クラブの中心メンバーでもあるトゥリガンさんは「洞くつ群の保存が問題だ。観光客が増えるにつれて落書きや破損が多くなっているし、相変わらず洞くつの中で財宝を探す輩も多くてね」と、少し困惑顔だった。

(澤田公伸)

社会 (society)