リサール公園のラプラプ像
選挙とともに去りゆく
マニラ市にあるリサール公園。スペインの植民地支配に抵抗し処刑された比随一の英雄、ホセ・リサールをまつったこの国の自由と独立を象徴する歴史的な場所である。ここに今年二月、韓国の非政府団体(NGO)の寄付で高さ約十メートルのラプラプ像が建てられた。ラプラプは現在のセブ州マクタン島の首長で、一五二一年にマゼラン率いるスペイン遠征隊を撃退したことで知られる。特大の剣を地面に刺し、腰布を巻いた筋骨たくましい体を金色に光らせた像は、国民的英雄の名に恥じず、威風堂々とそびえ立っていた。
建立はゴードン前観光長官の肝いりで、同公園や隣接する城郭都市・イントラムロス再開発の一環として計画された。今回の統一選で上院議員に当選した前長官が選挙出馬のため辞任した翌月に像は建てられた。観光省幹部は「辞任を前にゴードン氏は国民への贈り物としたかったようだ」と話した。
まるで前長官の当選を待っていたかのように、像の足や台座部分に亀裂が入り、倒壊の恐れがあるため解体中だ。観光省によると、像は合成樹脂でできた複製で、真ちゅう製の本物の制作が遅れたため一時的に置かれていただけ。瞬間最大風速二八メートル以上には耐えられず、倒壊の危険性はあらかじめ見越されていた。だが、複製が取り外されても、すでに完成している本物と取り替えられる可能性はほとんどない。
というのは、国立歴史研究所が猛反対しているからだ。「リサールや幾多の民族運動家が処刑された場所である公園は彼らにささげられたもの」と同研究所は主張している。国の史跡に指定されているリサール公園の景観変更には同研究所の許可が必要なのに、観光省は無許可で設置した。解体後は、別の場所を探さざるを得ない状況にある。
だが、観光省のアレサ次官は「十二月の会合で、歴史研究所は設置計画に原則反対しないと話していた。作業が始まってから急に意見を変えた」と複製の設置強行を正当化している。
複製像が建てられた場所にはもともと、一九九八年の独立百周年事業で建てられ未完工のまま放置されていたモニュメントがあった。勇壮なラプラプ像に代わり、確かに見栄えはよくなった。しかし、歴史研究所が反対し、倒壊が予想される危険な複製をなぜ強行設置したのか。同研究所関係者には「上院選でビサヤ語圏やイスラム教徒から支持を集めるのがゴードン氏の狙いだったのだろう」と見る向きが多い。
公園内を散策している市民からはラプラプ像について「あれはビサヤの英雄で、わたしたち(タガログ)の英雄ではない」「リサール像より大きく目立つ。これじゃあラプラプ公園だ」などの声が相次いだ。
選挙期間中の四カ月間だけそびえ立っていた複製像がゴードン氏の選挙にどう影響したかは分からない。外国の寄付約二千万ペソで制作された本物の像が行き場を失っているのは確か。巨額の援助資金を活用して完成したものの野ざらしになったままのマニラ空港第三ターミナルの姿が重複してきた。(湯浅理)