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12月24日のまにら新聞から

名所探訪「水上家屋」

[ 1056字|2000.12.24|社会 (society)|名所探訪 ]

「日常」洗い流す海と風

 イメルダ・ゴリ(49)さんの「別荘」は、マニラ湾へ突き出した小さな半島の突端、カビテ州カビテ市にある。海上の一戸建て。岸辺を走るジプニーのごう音や市場の喧騒(けんそう)もここには届かない。聞こえてくるのは、沖を往来する漁船のエンジン音と海面を渡る風音だけだ。

 魚の行商で育て上げた一男四女は、既に所帯を構えた。やはり、行商でルソン島各地を回りながら生計を立てているが、「子供が病気になった」、「魚を仕入れる金がない」と泣きつかれることが今も絶えない。

 自宅は、掘っ建て小屋が軒を連ねるナボタス市の海沿い。別荘へは、バスとジプニー、渡し船を乗り継いで二時間以上かかる。それでも、「ここにいると悩み事を忘れることができるから」と週に数日は海上で日常生活の雑事を洗い流す。

 別荘は二年前、高級魚ラプラプなどを養殖するため、貯金をはたいた。水面使用権として地元漁協へ三万ペソ、家自体の建設に三万ペソかかった。

 総竹造り。五十本を超える竹が水深約三メートルの海に林立し、床面積六十平方メートルほどの家を支える。居間と寝室の二間が約二十平方メートル。残りは、かやぶきの屋根しかない吹きさらしの空間だ。

 「台風が近付いた時は、家の戸や窓を全部開け放つ。風の通り道を作ってやれば壊れることはない。湾の中にあるから、波もそう高くないし」とゴリさん。そうは言うものの、今年十一月に大型台風が接近した時は、「部屋の片隅で家が壊れないように祈った」らしい。

 約六十メートル離れた場所には、もう一軒、同様の水上家屋がある。主は地元出身のアンテ・クピノさん(48)。十年ほど前から魚の養殖をしながら水上生活を続け、今はイロイロ島出身の奥さん(24)と一男一女の四人暮らし。

 二軒の家は、やはり総竹造りの「空中回廊」で結ばれている。足場となる竹と竹の間隔は数十センチ。数メートル下には濃い緑色の海面が広がる。不慣れな者が乗ると思わず足がすくむ。

 水上で生まれ育ってきたクピノさんの長男(10)にとって回廊は絶好の遊び場だ。はねるように行き来する。飼い犬が後を追おうとするが、うまくいかない。

 クピノさんがしり込みする愛犬を海へ投げ、それを追うように長男も海へダイブ。家周辺で漁をしていた潜水夫から「ホーイ」と声がかかる。そんな日常茶飯の出来事を黙って眺めていたゴリさんが夕げの支度に立った。「ガビ・ナー」(もう夜ね)。夕日が半島の向こう側に沈もうとしていた。 (酒井善彦)

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