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7月2日のまにら新聞から

バラソアイン教会

[ 890字|2000.7.2|社会 (society)|名所探訪 ]

虚像踊った革命の舞台

 一九九八年六月三十日、エストラダ大統領はルソン島ブラカン州のマロロス町内を馬車で駆け抜けた。笑顔を振りまきながら、さっそうと教会へ向かう元俳優エラップ。百年前の史実をまねた就任式典は、「正義の味方」「頼りになる男」という銀幕上の虚像を国民に改めて想起させた。

 式典の舞台になったのは、フィリピン革命の最高指導者、エミリオ・アギナルド将軍が初代大統領に就任したバラソアイン教会。一八七七年の創建で、九七年に石とレンガを組み合わせた現在の造りに。一九七三年には国家歴史学会から歴史的建造物に指定された。

 また、スペインからの独立百周年を控えた九七年には、教会関係者の居住部分が歴史博物館に改装され、革命の経緯などを説明するパネルが設置された。同町で初めて制定された憲法の変遷に関する展示もあり、一八九二年以来計五回の改正を経て万民平等や政教分離、地方自治など基本理念が組み入れられていく過程が総覧できる。

 独立後も、米国、日本の植民地支配を受けたフィリピン。教会は国の「ルーツ」を語る上で絶好の生きた教材で、小学生や高校生の社会見学のコースになっている。博物館の一部には、小学生らに投票の疑似体験をさせるコーナーがあり、投票用紙記載台と投票箱が置かれている。

 小学生対象の模擬選挙で選ばれるのは、「家族以外で自分の面倒を見てくれるリーダー」。投票用紙には、①勤勉な人②優しい人③正しい人④勇敢な人︱︱という四タイプの候補者が書かれ、この中から一人を選ぶ。博物館職員のエドガー・サンチャゴさん(29)によると、当選者は③が多い。

 サンチャゴさんは、前回大統領選で現大統領に一票を託した一人。「模範的な候補者とはとても言えなかったが、何か変わるかもしれないと期待した」と振り返る。

 こけむした教会が庶民の熱気と期待感に包まれたあの日から二年。銀幕上で①︱④のすべてを満たした元ヒーローの支持率は、政商らとの黒い関係など実像が露見するたびに落ちてきた。虚実の落差がこのまま開き続ければ、「エストラダ大統領のように」と馬車に乗った新大統領が現れることはないだろう。(酒井善彦)

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