無国籍者保護法制定へ 残留日系人も対象
下院で包括的難民・無国籍者保護法案が提出。残留日系人の国籍回復加速化に期待
ロムアルデス下院議長はこのほど、妻のイェッダマリー下院議員、ジュード・アシドレ下院議員らと共同で、フィリピン国内の難民・無国籍者に関する問題を完全に解決することなどを目的とした「包括的難民・無国籍者保護法案」(下院法案第10799号)を提出した。成立すれば、初の難民・無国籍問題に関する包括法となる。比には戦前に邦人移住者の子どもとして生まれ、戦後は無国籍状態に置かれた残留日系人が多数存在している。
まにら新聞が入手した法案のコピーによると、同法案は「無国籍問題の唯一の解決法は、国籍の取得または国籍の確認である」(12条)と明記するとともに、無国籍問題に取り組む司法省・難民・無国籍者保護係(RSPPU)を事務所に格上げして権限を強化、予算、人員をつけることを定めるなど意欲的な内容となっている。
同法の制定を支援する「人口と開発に関する比議員委員会」のネリタ・ダルデ理事は、まにら新聞の取材に対し、「インドネシア系、ベトナム系、マレーシア系の無国籍者と同様に、日系の無国籍者も同法による保護の対象となる」と回答。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)は2021年、残留日系人を「無国籍のリスクのある人々」に指定、無国籍者ゼロの目標達成の目標年を今年に定めている。残留日系人二世の高齢化が進む中、同法案が国籍回復の加速化のための強力な法的枠組みになることへの期待もかかる。
同法案の7条によると、格上げされる形で新設される難民・無国籍者保護事務所の所長は大統領が任命する。3人の副所長も大統領任命職で、それぞれ難民保護、無国籍問題対応、管理・財務問題を担当する。
同事務所の機能と権限については、第6条で、同法・国際法および「比国の人道的伝統」に従って難民・無国籍者の認定、支援、保護に関する手続きを確立し実施することや、政府の支援・保護プログラムの策定、非政府機関やUNHCRなど国連機関との連携などが定められている。
▽合同委は「いい案」
UNHCRは2021の報告書で、無国籍状態のインドネシア系住民の問題を解決するため、両国政府が合同委員会を設置し、当事者に①比国籍②インドネシア国籍③限定的な二重国籍者――のいずれかに認定した成功例を挙げ、比日両政府にも同様の合同委員会の設置を勧告している。
入管のマブラク報道官代行は27日、司法省関係機関の会見で、「勧告から数年経つが、なぜ残留日系人に関する比日合同委員会が設置されていないのか」というまにら新聞の質問に対し、「司法省、外務省などの関係省庁が合同で取り組む事案であり、入管単体としての回答は控えたい」とした上で、「勧告内容は良いものだと考えている」とした。
いまだ無国籍状態にある残留日系人の中には、戦中・戦後の「日本人狩り」や迫害から逃れるため、父とのつながりを示す書類の一切を処分し、長い間身分を隠して生きてきた例も多い。その公式文書の回復のための方法の一つが、比における「遅延登記」制度だ。これに関し、「遅延登記制度を悪用し比人を装ったバンバン町のアリス・グオ前町長の事件の余波で、遅延登記の手続き自体が厳格化し、無国籍者や無登録児童など本当に必要としている人たちに悪影響が及ぶおそれはないか」との質問に、マブラク報道官代行は「この問題は第一にRSPPUの保護官が担当しており、入管はその決定に従う立場だ」と説明した。
ファドゥロン検事総長は「遅延登記制度の必要性は認識しており、廃止されることはないと思う」としながら、「悪用されている事例もあり、その点に関しては厳格化されるだろう」との見通しを示した。(竹下友章)