「紛争なしで支配完成が目的」 中国の戦略で比海軍少将見解
比海軍報道官「中国の戦略は紛争に発展しない手段で南シナ海全域を支配下におくこと」
フィリピン海軍の西フィリピン海(南シナ海)問題報道官を務めるロイビンセント・トリニダッド少将は20日、前日に南シナ海エスコダ礁(国際名サビナ礁)で発生した比中巡視船の衝突事件の際に、同礁周辺に中国海軍艦2隻が展開していたことを明らかにした。その上で、「エスコダ礁が新たなフラッシュポイント(武力紛争の着火点)になることはない」と断言し、その理由として「紛争に至る境界線以下の攻撃的行動や情報戦など総合的なアプローチを通じて、南シナ海全体の支配を確立することが狙いだからだ」との見解を示した。
19日の海警局船と比巡視船との衝突事故では、比巡視船(日本供与)の船体に幅90センチの穴が開く過去最大の損傷を受けた。6月17日に南シナ海アユギン礁(英名セカンドトーマス礁)で発生した海警局艇と比海軍ボート間に発生した事件では、海警局職員が刃物を振りかざして比ボートをパンクさせ、衝突ともみ合いの中、海軍職員が親指を欠損する重症を負った。これらの人的・物的損害をもたらした中国の行動は、「武力攻撃」とはみなされていない。
▽孫子の兵法
トリニダッド少将は孫子の兵法の一節を引用し、「中国共産党の戦術は『善の善は戦わずして勝つ』ことであり、それは外交、情報、法律、軍事力含めたあらゆる手段を動員しながら、1発も撃たずに勝つという考えだ」と説明。さらに「中国の目的は、海軍、海警局、海上民兵を利用し、2011年から埋め立て、軍事化した三つの人工島を維持することで、南シナ海全域を支配すること。また、エスコダ礁にもサンゴの残骸が積み上げられていたことが確認されている」と報告した。
中国は南シナ海南沙諸島で1995年に比から実効支配を奪取したミスチーフ礁(比名パガニバン礁)のほか、スビ礁、ファイアリークロス礁に人工島を造成。これらの人工島では滑走路やミサイル発射台とみられる建設物が確認されている。
今月、パナタグ礁(英名スカボロー礁)で哨戒していた比空軍輸送機に対し中国戦闘機2機が威嚇し、フレア(発光弾)を発射した事件に関し、「中国本土から遠く離れた同礁に中国機はすぐ現れた。人工島から来たのではないか」との質問には、国軍報道官のパディリャ大佐が「憶測は避けるが、中国戦闘機は(艦載機でなく)陸上機だということを確認している」と回答した。
▽暫定合意と座礁艦補修
19日の衝突事故で、「比巡視船がアユギン礁近海を侵犯した」いう海警局側の発表について、トリニダッド少将は、「中国の言説は欺瞞(ぎまん)的であり、扱う際は注意が必要だ」とコメント。「先月中国と結ばれた『暫定了解』の下で、比はアユギン礁の実効支配するために座礁させてある揚陸艦に(補修用の)建設資材を補給できるか」との質問には「比職員が配置されている同艦の居住性、安全性、快適さを確保することは、比海軍の任務だ。われわれは同艦を諦めることはなく、われわれは同礁の恒久的な支配を保証する」と断言した。(竹下友章)