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6月11日のまにら新聞から

「PCG支援 世界中に利益」 JICAフィリピン・坂本所長

[ 1739字|2024.6.11|政治 (politics) ]

比JICAの坂本所長がPCGへの97メートル級巡視船5隻追加供与と南シナ海問題との関係についてインタビューに応じた

インタビューに応じるJICAフィリピン事務所の坂本威午所長=10日、首都圏マニラ市の財務省で竹下友章撮影

 南シナ海で中国のフィリピンに対する圧力が強まる中で10日、比沿岸警備隊(PCG)最大船となる97メートル級巡視船(多目的船)を5隻追加供与するための643億8000万円の借款契約が、国際協力機構(JICA)と比政府間で締結された。緊張がエスカレートする中での日本の海上保安協力の加速化について、JICAフィリピン事務所の坂本威午所長がまにら新聞などのインタビューに応じた。(聞き手は竹下友章)

 ―今回の借款契約をどう位置づけているか。

 PCGの保有船隻は圧倒的に少ない。PCGが主要船隻1船あたりでカバーしないといけない範囲は、日本の海上保安庁の10倍だ。つまり、この指標で言うと、PCGの能力は日本の10分の1しかない。だからこの5隻だけで十分だとは思っていないし、船舶の供与はもっと早くできていればという思いもある。フィリピン側の要望、日本側の考え、予算などが全てOKだったら、引き続きやっていくべきだ。さらに、船があっても動かなければ意味がないので、保守・運用に関する技術協力も引き続き同時にやっていく。

 ―南シナ海での中国による比に対する圧力強化とどう関係するか。

 特定の国が国際法に違反する行動をしたり、一方的に過度な圧力をかけるような行動に対し、対抗力として、明らかに有効だと思う。ただし、JICAはこの事態を見越して準備してきたわけではない。長い時間をかけ、信頼構築、技術協力、能力構築協力と積み重ねてきて、今回の借款契約に至った。だから、このタイミングはある意味偶然で、別の意味では必然でもあるが、そのためだけに進めてきた事業ではない。

 ―南シナ海問題とJICAの海洋協力があまりに結び付けられると、緊張がさらにエスカレートしたり、あるいは和解したときに支援をしなくなるという心配はないか。

 それは心配いらない。仮にフィリピンと中国が仲良くなっても、船が要らなくなることは全くない。海洋法執行分野以外にも、海洋環境保全、台風などの災害が起きた際の救援など重要な用途はたくさんある。年間に台風が20回来るフィリピンにとっては非常に重要だ。

 私が個人的に心配しているのは、相手が「日本やフィリピンがわれわれを悪者にして、われわれに対する対抗力を高めている」という誤解をすること。その誤解に基づき、相手もそれに対抗しようとすると、本末転倒だ。

 PCGの発展の余地は大きく、航行の安全というのは、フィリピンにも、日本にも役に立つし、ひょっとしたら中国のためにもなることだと考えている。結果として、国際法違反行為や一方的な圧力への抑止効果は必ず出てくる。

 ―最初の97メートル多目的船は契約から引き渡しまで6年かかった。今回は4年半で5隻供与するが、短期間にどうやって供与するか。

 フィリピンはこれまで日本から12隻の船舶を調達した経験がある。どこがボトルネックになるか、どうやったら早くなるかといった経験を通じた「習熟」がある。JICAにも長期専門家などがおり、手続きのスピードアップの手伝いもしたいと考えている。5隻を一気に供与できるわけではなく、造船会社のドックがどれくらい空いているかにもよる。しかし、早ければ2~3年内に最初の1隻の供与を実現したい。

 ―スービックへの建設が予定されているPCG拠点との関係は。

 新しく5隻の大型船を調達しても、今はそれを運用する核となる拠点がない。なので、比からの要請に基づき、スービックにPCG拠点を建設する協力準備調査をしている。これが無事に終われば、建設の協力を行う。これは、日本にとってもアジア全体にとっても意味のある事業になる。というのも、フィリピンの海域には大きなシーレーンがあり、日本も含め、世界中の船舶が使う海路をより安全にできる。どの国のどの船にとっても明らかに利益になる。

 旧米軍基地として知られるスービックに建設が検討されているのは、適切な用地がそこに空いていたから。沿岸警備隊は軍隊ではないので、その使命はあくまで沿岸の警備と航行の安全の確保。この事業は、4月の比日米首脳会議で発表された「ルソン経済回廊」構想にも寄与すると思う。

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