「類似した課題に直面」 ゼレンスキー大統領が来比
ゼレンスキー大統領がマルコス大統領と会談。マルコス大統領は「両国の困難は類似している」とし、支援継続を約束
ウクライナのゼレンスキー大統領は2日夜、初めて来比し、3日午前にマルコス大統領と会談した。ゼレンスキー氏は、比政府が2022年のロシアのウクライナ軍事侵攻以降国連決議などを通じ、同国を支持する立場を示してきたことに謝意を表明。今月15~16日にスイスで開かれる自身が提唱した「平和サミット」にマルコス大統領を招待した。
2日にはアジア安全保障会議(シャングリラ会合)に合わせてシンガポールを訪問したゼレンスキー氏。ウクライナ軍事侵攻に対し、中立的な国が多い東南アジア諸国連合(ASEAN)の中で、ウクライナ支持の立場を取ってきたシンガポールとフィリピンを重視する姿勢を示した格好だ。
会談でマルコス大統領は「今回の訪問が最後にならないでしょう」と述べ、次回の訪問も提案。それに対しゼレンスキー大統領は、招待への感謝を示した上で、「比がわが国の領土占領に対し、強い言葉で明確な立場を示してくれてきたこと、そして、国連決議を通じた支援に心から感謝する」と述べた。
それにマルコス大統領は「ウクライナ、そして世界の国々にも道義的に受け入れられる方法を見つけるのは困難な道のりになる」とした上で、「貴国が直面している課題は、わが国が直面している課題と類似しており、かつ並行して起こっている」と指摘。「だからこそ、比は平和を促進するためにあらゆることを行いたい」と請け負った。
ロシア、中国という両軍事大国からの武力の行使や圧力にそれぞれ直面する中、国際世論を味方につけることで対抗するフィリピンとウクライナが、距離を縮めた形となった。
ゼレンスキー氏は2日、シンガポールで開いた会見で「ロシアに協力する中国は、平和サミット欠席を表明したばかりか、他国に欠席を働きかけることを通じ妨害している」と非難。マルコス大統領もシャングリラ会合では中国を念頭に、力による威圧や威嚇に反対を表明。中国軍高官に対し、「比人が死亡した場合は『戦争状態』となり、これがレッドラインだ」と通告するなど、明確な対中けん制を行っている。
フィリピンはこれまで、ウクライナ紛争の公正で永続的な解決を求める六つの国連決議、ウクライナの主権、領土一体性、政治的独立性を支持する五つの国連決議に賛成票を投じている。
▽サイバー攻撃経験の共有
今後の両国の協力についてゼレンスキー大統領は、ロシアから数百回に及ぶサイバー攻撃に対応した経験を比と共有し、比のサイバーセキュリティー能力の向上に協力することができると提案。サイバーセキュリティーは比が海外との防衛協力で特に強調している分野だ。
また、比に協力を求めたい課題として、ウクライナでは前線で戦う兵士や市民兵が帰還したとき、心のケアをする精神保健ワーカーが不足していると訴え、協力を要請した。マルコス大統領は、心理ケアを含めた医療人道支援を行う意向を伝えた。
ゼレンスキー氏はさらに、今年在比ウクライナ大使館を設置すると報告した。
大統領府によると、武力紛争勃発前に在ウクライナ比人数は約200人いたが、2022年の戦争開始以降25人に減少。ウクライナにとどまる決断をした比人は、ウクライナ人の配偶者という。(竹下友章)