中国「自制には限界ある」 米国「威圧には未来ない」
シャングリラ会合で米中国防相が「中国の自制にも限度がある」「威圧は地域の未来ではない」などと相互けん制
シンガポールで開かれた各国の国防省・軍のトップが集結するアジア安全保障会議(シャングリラ会合)で、米中の国防相が南シナ海問題やフィリピンと米国の防衛協力を巡り、「中国の自制心にも限度がある」「地域の未来は脅しや威圧ではない」などと相互にけん制した。
オースティン米国防長官は1日に登壇。「新しい時代は、単一の同盟や連合に収束するのでなく、共通のビジョンと交互義務の精神に促進される一連の重層的・相補的な枠組みに収束する」とし、比や台湾へ圧力を強める中国を念頭に「それは、一国の意思の押しつけ、脅迫・威圧ではない」と強調した。また同国が推し進める多国間協力に根ざす共通の価値について、「主権・国際法の尊重」、「交易と意見の自由な交換」、「航行・上空飛行の自由」に加え、「威圧や、紛争、『制裁』と呼ばれる方法によらない、対立の平和的解決」を挙げ、中国の「経済的威圧」を念頭に釘を差した。
アジア地域への安全保障への関与については、「アジアが安全でなければ米国の安全もない。アジア太平洋地域は米国の優先作戦地域だ」と強調。「比米同盟は鉄壁だ」と明言した。
その上で、「この3年で米国は地域の同志国との関係を深め、結果を残してきた」とし、①比政府との「海洋防衛能力」の展開および地域一帯への海洋状況把握(MDA)能力の拡大に関する緊密な連携②比米防衛協力強化協定(EDCA)に基づく米軍の巡回駐留先の増加③比豪仏と実施した過去最大規模の合同軍事演習「バリカタン」④インドネシア、タイ両国での多国間軍事演習「スーパーガルダシールド」「コブラゴールド」への協力拡大⑤パプアニューギニアの港湾・インフラなどへの米軍のアクセスを可能とする防衛協力協定の締結⑥極超音速兵器の迎撃能力に関する日米協力⑦日本における米海兵隊の前方展開⑧日韓との間の北朝鮮ミサイル情報のリアルタイム共有枠組み⑨日豪との統合防空ミサイル防衛協力の推進⑩インドとの戦闘機エンジンと装甲車両の共同生産――を挙げた。
▽「自分の身を焼く」
2日に登壇した中国の董軍国防相は、オースティン氏の演説を受け、南シナ海問題や比米軍事協力について、「わが国は権利侵害と挑発行為に対し十分な自制をしてきたが、これにも限度がある」と警告。「中距離ミサイルの配備は、地域の安全と安定に深刻な害をもたらす。こうした行動は、最終的には自身の身を焼く」と述べた。さらに台湾問題にも触れ、「台湾の独立を強制的に阻止する準備はできている」とした。
米軍は4月、比米総合軍事演習バリカタンと陸軍間演習サラクニブを通じ、初めて中射程ミサイル「スタンダードミサイル6」、および長距離巡航ミサイル「トマホーク」の配備訓練を行ったと発表。また、「独立派」として中国が警戒する頼清徳総統の5月の就任を受け、中国軍は同月台湾周辺で軍事演習を行っており、中台関係でも緊張が高まっている。
中国軍の景建峰統合副参謀長はその後の会見で、重層的な多国間安保協力のネットワーク作りを推し進める米国版のインド太平洋戦略に対し、「冷戦思考の排他的グループの形成を目指しており、狙いは米国覇権維持のためのアジア太平洋版NATO(北大西洋条約機構)作りだ」と主張。「これは、地域の平和と安定に対する大きな困難となる」と批判した。
南シナ海問題については、「同海では、米民間船だけでなく、米軍艦が『招かれざる客』として来た場合でも通過することができている。航行の自由がないなどとどうして言えるのか」とし、米国が誇大に問題を強調していると主張した。
その上で「東南アジア諸国連合(ASEAN)は離れることのできない隣人だ」「隣人同士ならは口げんかすることもある。しかし、『狼』を家に招き入れて火遊びをする必要はない」とし、米国との防衛協力を進める比を念頭にけん制した。
さらに台湾問題については「台湾独立は戦争を意味する」と述べた。(竹下友章)