「比職員が殺されたら発動」 MDT発動要件で大統領
大統領「比職員殺されたら比米防衛条約発動」「EDCA基地は増設しない」
南シナ海で中国海警局・民兵船による比船への妨害活動が比海軍職員を負傷させる事態まで深刻化する中、マルコス大統領は15日、比米相互防衛条約(MDT)が発動する条件について「軍艦であれ、巡視船であれ、商船資格の船舶であれ、外国勢力からの攻撃や攻撃的行動によってフィリピン国民が殺された場合は、MDTを発動する」と明言した。同発動条件は、初の比日米首脳会談出席のために訪米した際、オースティン米国防長官と協議し確認したと述べた。
比外国人特派員協会(FOCAP)の創設50周年記念会見に招かれた大統領は、冒頭のスピーチで比への圧力を強める中国を念頭に、「西フィリピン海(南シナ海で比が権益を有している海域)で比は違法、攻撃的、無責任な行動を受けている」とし「こうした平和と安定を損なう行為を白日の下にさらすことが重要だ。われわれは主権を守り、主権的権利・管轄権を行使するためにあらゆることをしなくてはならない」と強いメッセージを打ち出した。
一方で11日(米時間)に開かれた初の比日米首脳会談で結んだ3カ国の合意については、「最近起こった事象への反応でも、特定の国に向けたものでもない」と説明。「南シナ海問題への対処は3カ国協力の目的ではあるが、同海の航行の自由を維持することは世界中の海運・貿易にとって重要だからだ」と経済的側面を強調。中国への配慮を見せた。
一方で、3カ国共同声明に記された比日米で安保・防衛協力を進める内容については、「これまで行ってきた相互運用性向上のための共同訓練を公式文書に書き込み、制度化することを意図した」と説明。自衛隊の比国内での演習参加については「(最大の比米合同演習)バリカタンに限らず、他の訓練への日本の参加を否定する理由は見つからない」とし、平和と安定・国際法の堅持を目的とし、共同の拡大には積極姿勢を示した。
▽「RRAもうすぐ」「EDCA増やさない」
自衛隊が装備品を比国内に持ち込み本格的に軍事演習に参加するには部隊間協力円滑化協定(RAA)が必要だ。RAAの政府間妥結の見通しについては、「岸田首相とも協議したが、原則上問題はない」と説明。「正確を期すためにどのような表現にして条文化するかを調整している段階。もうすぐ調印に至るだろう」と述べた。ただ、自衛隊員が比国内で犯罪を犯した際の身柄の取り扱いについては「VFA(訪問軍地位協定)とは異なっており、そうした内容は協定の中に入らないだろう」と述べた。
比米VFAでは、犯罪容疑のある米国要員の拘束場所を米当局施設内にできる5条6項があり、レイプ事件・殺人事件の容疑者の身柄が米大使館内に留置されたことが比の国民感情にしこりを残してきた経緯がある。犯罪容疑者の身柄の取り扱いについては、政府間調印後も条約批准権を持つ上院での審議で大きな論点となりそうだ。
また、国内9カ所の設置が決まっている比米防衛協力強化協定(EDCA)に基づく米軍利用施設を「さらに増加させるか」との質問には「米軍利用基地を増やす計画はない」と明言した。
ドゥテルテ家がマルコス批判を強める中、南シナ海問題で沈黙を守っていることで批判が集まるサラ・ドゥテルテ副大統領を大統領が擁護していることについて、「ドゥテルテ家とはどのような関係なのか」と問われた際は、「複雑な関係だ」と言って笑いを誘った。(竹下友章)