「パラダイムシフト行う」 南シナ海新戦略で大統領
マルコス大統領「南シナ海問題は従来の外交的方法では対応しきれない。これまでやったこのない戦略のパラダイムシフトを行う」
19日の大統領広報室発表によると、マルコス大統領は訪日期間中、中国との緊張が高まる南シナ海問題について日本メディアに対し、「従来の外交的方法では悪い方向に向かっている」との認識を示し、南シナ海戦略に関し「パラダイムシフトを行うことを検討している」と明らかにした。
大統領は、中国に対してこれまで公式な外交文書である口上書や、駐中国大使による中国外務省への抗議など外交的対応を「長年にわたって行ってきたが、ほとんど成果がなかった」と指摘。「これまでやったことのない方法を考案し、針を逆方向に動かす必要がある」とした。
一方で、「誤りや誤解によって本当の武力衝突が発生する可能性は常にある。私はそれを望んでいない」とし、平和的な方法を模索することを強調。「(南シナ海)問題に関係している国々がパラダイムシフトを行う時だ」とし、その内容については「様々なアイデアがある」としながら「インド太平洋諸国や、必要ならば域外の国とも連携して対応する」という方向性を示した。
大統領は今回の訪日で、訪問部隊の法的地位を定める比日円滑化協定(RAA)について「可能な限り早急に締結したい」との意向を表明。岸田文雄首相との会談では交渉の早期妥結に向け取り組むことで一致した。大統領訪日に合わせて17日に署名された比沿岸警備隊(PCG)と海上保安庁間の覚書では、不審船や第三国の公船の動静などに関する情報を共有する内容が盛り込まれた。
フランスとも今月はじめ、両国防相が比仏訪問軍地位協定(VFA)に向けた検討を始めることで合意している。
10日に実施された、南シナ海南沙諸島アユギン礁(英名セカンドトーマス礁)で比が詰め所としている座礁艦への補給任務では、海警局巡視船が高圧放水砲を比巡視船(日本供与)に発射。マストに損傷を与えるなど、物的な被害が発生した。それに対し、比政府は外務省による抗議、駐中国フィリピン大使による抗議、黄渓連駐比中国大使を召喚しての抗議の三つを実施。黄大使の本国送還を求める声も出たが、大統領は18日に「送還の必要まではない」との認識を示している。
▽域外国との連携に警戒
大統領は16日、「南シナ海での中国の主張が強まりにより、周辺諸国のみならず世界にとって大きな困難になっている」との認識を示した上で、比日2カ国だけとどまらず、比日米3カ国協定を含めた多国間の安全保障協力を促進する意向をに示していた。
それに対し中国外務省の汪文斌報道官は18日、「この数カ月間、比中の共通の理解を反故(ほご)にし、仁愛礁(アユギン礁の中国名)の現状変更を試みて既成事実化し、域外の力を招いて中国に圧力をかけているのはフィリピンだ」と反論。
「フィリピンがどのような煙幕をはり、『非難ゲーム』を行おうとも以下の事実は動かない」として、①24年前にフィリピンは仁愛礁の座礁艦を撤去すると約束したにもかかわらず、まだ撤去されていない②両政府が状況を安定させるために仁愛礁問題適切に管理することに合意したにもかからわず、比は同礁の永久占拠のため座礁艦を大規模修復しようと公船を派遣して建設資材を運搬している――と主張した。(竹下友章)