500ヘクタールのサンゴ破壊 中国がパナタグ礁で 専門家発表
比大教授が2012年から2016年にかけ、約500ヘクタールのサンゴ礁が中国により破壊されていたことを発表
フィリピン大海事海洋法研究所所長のジェイ・バトンバカル教授はこのほど、比シンクタンク「ストラトベース」主催の会議で、サンバレス州西方沖のパナタグ礁(英名スカボロー礁)を中国が占拠した2012年から16年にかけ、約500ヘクタールのサンゴ礁が破壊されていることを報告した。衛星画像の分析により明らかにした。
同教授は「(南シナ海内で比が権益を持つ)西フィリピン海でのサンゴ大量破壊は長期にわたって行われており、今でも続いている」と指摘。その一方で、中国の主張を全面的に退けた2016年7月の仲裁裁判所の判断は「(中国に)友好的な」ドゥテルテ政権下で出たため、「急速な人工島造成とその後に続く破壊的な漁業によるサンゴの大量破壊について中国は説明責任を求められることもなかった」と、比政府の対応の不十分さにも触れた。
さらに、サンゴの破壊のもう一つの理由として、中国の海上民兵を兼務しているとされる中国漁船の長期操業も指摘。「民兵船は数カ月にわたり集結、操業しており、手つかずのサンゴに大量のいかりを下ろしてきた。そうなると破壊は避けられない。また、サンゴは水質に敏感なため、その間に海洋に流される汚水が悪影響を与える可能性もある」と説明した。
その上で「中国による海底しゅんせつは2021年にも記録されている。単に破壊するサンゴがなくなったという理由で現在しゅんせつの頻度は少なくなったが、なお活動があることは知るべきだ」とし、サンゴ破壊の被害額を定量的に評価すべきと主張した。
▽ロズル礁でも調査
また同会議に出席したモヤ・コレット駐比豪州臨時代理大使は、南シナ海におけるサンゴ被害の調査・量的評価について豪州政府が協力する可能性に言及。「今のところ具体的な計画があるわけではないが、既存の海洋協力プログラムにはその(環境被害を評価する)能力もあり、それを通じて行う可能性はある」と発言した。
さらに、先月サンゴの大量喪失が判明した南シナ海南沙諸島のロズル礁(英名イロコイ礁)やエスコダ礁(国際名サビナ礁)を含め南シナ海の他の海域にも事業を拡大する可能性にも言及。「われわれはサンゴ礁の再生と、サンゴ礁を含む海洋環境全体のモニタリングを行っている。最近は、フィリピンにモニタリングを支援するための機材を引き渡しているが、今後もっと広い範囲でできる可能性がある」とした。
豪州は現在、パンガシナン、サンバレス、パラワンの各州で比と共同でサンゴ礁の修復とモニタリングプロジェクトを実施している。
フィリピンのサンゴ礁回復プロジェクトを手掛けるシドニー工科大のマイケル・ファビニ准教授は「南シナ海全体は、サンゴ礁の被害を含め多くのことが分かっていない。漁業自体もより適切かつ生産的に管理する余地がある」とし、将来的に科学的研究の共同の機会があることを強調した。
ストラトベースのマンヒット代表は「2016年の仲裁裁判所判断は、西フィリピン海の海洋生物多様性に環境破壊をもたらした中国の違法行為に対して判断を下した。不法な埋め立て、人工島の建設、排他的経済水域への侵入による西フィリピン海の環境悪化をこのまま続けさせていいはずがない」と主張。「いわゆる十段線の地図に加え、最近報告されたサンゴの採取は、中国のフィリピン海域内での拡張的で破壊的な計略の現れ。その強気の行為は法の支配に反し、被害は甚大だ」と中国を批判した。
その上で「西フィリピン海問題には各セクターが共同して社会全体のアプローチを固めるべき時が来ている」とし「この海域における比科学者と彼らの海洋科学研究への支援も強化されるべきだ」と提言した。(竹下友章)