「心理戦仕掛けている」 中国の「新十段線」主張で
中国が新たに「十段線」を主張。国家安全保障会議アニョ事務局長が「認めない」と宣言
中国政府は8月28日に南シナ海のほぼ全域に加え、台湾東沖まで自国の管轄下とする最新の標準国土地図を発表した。従来の「九段線」の主張が「十段線」に拡大された。それに対し、アニョ国家安全保障担当大統領顧問=国家安全保障会議(NSC)事務局長兼任=は31日、「われわれは中国の『十段線』の主張を認めない。むろん『九段線』もだ」と宣言。「マレーシアやインドは既に反対の声を挙げている。反対する国はまだ増えるだろう」とし、その上で「政府は引き続き領土一体性と国家主権を守るためにあらゆる努力を惜しまない」と覚悟を示した。
首都圏ケソン市で同日開かれた大統領府、比沿岸警備隊、NSC共催のメディア向けセミナーでは、NSCのネストル・ヘリコ副事務局長がアニョ事務局長のコメントを代読。コメントの中でアニョ氏は、「南シナ海の沿岸国の中には、比国民の注意を逸したり、国民を分断する戦術を採用しているものがある」とし「直近では中国政府が巧みに心理戦を仕掛けてきた。かれらの言説でわれわれをわなにかけ、本当の問題ではないところに注意を奪われるように仕向けている」と中国を名指しで批判した。
その上で「西フィリピン海(南シナ海内で比が管轄権を持つ海域)における緊張の高まりと、より威圧的な行動が見られるなか、情報の力は政府の政策決定にとっても重要となっている」とし、国防省記者クラブに所属する比メディアに対し、国際法に則った報道を呼びかけた。
▽進む「取り戻す権利」の行使
南シナ海の海洋地勢を巡っては、東南アジアの沿岸国は2009年以降、領海、接続水域、排他的経済水域(EEZ)を明確に規定した国連海洋法条約(UNCLOS、1994年発効)に則った主張をしている。現在東南アジアの沿岸国は2016年の仲裁裁判の結果に基づき、南沙諸島にはEEZの起点となる「島」はないとの主張を受け入れているが、中国は受け入れていない。
「島しょを取り戻す権利を持っている」とする中国は、80年代以降、南沙諸島の七つの海洋地勢を軍事的に実効支配。クラーク、スービック両米軍基地が撤退した3年後の95年には、低潮高地パガニバン礁(英名ミスチーフ礁)、2012年にはルソン島西沖(中沙諸島)の高潮高地パナタグ礁(英名スカボロー礁)の実効支配をそれぞれ比から奪った。
それに対抗し2013年、ノイノイ・アキノ政権は国際仲裁裁判所に中国を提訴。中国はその翌年の14年以降に実効支配する海洋地勢に迅速かつ大規模な埋め立てを始め、人工島に作り替えた。
16年の仲裁裁判所の判断は、中国が主張する「歴史的権利」に対し「UNCLOSの規定と整合していない」と全面否定。現在中国が軍事拠点として利用しているスビ、パガニバン両礁について、それぞれ比が支配するパグアサ島の領海内、比のEEZ内と認定。また、パナタグ礁については比漁民に対する伝統的漁業権を認めている。(竹下友章)