「日刊まにら新聞」ウェブ

1992年にマニラで創刊した「日刊まにら新聞」のウェブサイトです。フィリピン発のニュースを毎日配信しています。

マニラ
29度-23度
両替レート
1万円=P3,730
$100=P5855

4月25日のまにら新聞から

「ボンボン候補の仕事は『息子』」 第1回アジア政経社会フォーラム

[ 2086字|2022.4.25|政治 (politics) ]

柴田直治氏らによる「アジア政経社会フォーラム」の第1回ウェブ講演会が開催された

ウェブ公演を行う柴田直治共同代表=23日

 柴田直治朝日新聞元アジア総局長、舟越美夏共同通信元マニラ支局長が共同で代表を務める「アジア政経社会フォーラム」(APES)=4月設立=の第1回ウェブ講演会が23日、開催された。セミナーでは次期大統領への当選が濃厚と目される故マルコス元大統領の長男ボンボン・マルコス元上院議員について、高支持率の要因や当選後の政権の予想、父・マルコス政権の実態に関する解説がなされ、参加者と活発な討議が交わされた。

 ▽地味だったボンボン氏

 柴田共同代表は95年にボンボン氏が上院議員選に立候補した際のエピソードを紹介。同氏にロングインタビューを行ったものの、圧倒的に話が面白かったという姉のアイミー・マルコス現上院議員、母イメルダ・マルコス元大統領夫人と比べ「まったく話が面白くなかった」。そのため、結局記事化を断念せざるを得なかったという当時のボンボン氏の印象を回顧した。

 日本人にとって馴染みが薄く、2016年に副大統領選に落選して以来無職状態にあるボンボン氏の人物像について「姉や母に比べ中身のない人物。一言で言うなら『マルコスの息子』が彼の職業」とした。

 

 ▽「ゴールデンエイジ」の実態

 柴田氏は次に、ボンボン候補の父であるマルコス元大統領期のパフォーマンスをデータによって説明。

 戒厳令期間(1972~81年)に、政治的理由による「殺害が3千人以上、拘束・拷問が約3万4000人以上に上った」という人権弾圧に加え、マルコス政権初年の65年に「1ドル3・91ペソだった為替レートは86年には20・46ペソまで暴落」、同期間に対外債務は「8億ドルから283億ドルに膨張した」と指摘。「かつてアジアで2番目に豊かだった比が『アジアの病人』に転落した」と説明した。

 ▽異例の高支持率の理由は

 そうした負の側面の多い父の政権と重ね合わせられるボンボン氏が世論調査で支持率50%を超えトップを独走する理由について、柴田氏は①サラ・ダバオ市長とペアを組むことによる人気の取り込み②イメルダ夫人のマラカニアン宮殿帰還への執念③ソーシャルメディア上での組織的世論工作④それによる歴史修正主義のまん延⑤エリート層への鬱屈――の5要因を提示。

 91年に亡命先のハワイから帰国した直後に大統領選に立候補するなど、エドサ革命以降の比政界でマルコス家復権に執念を燃やし続けるイメルダ夫人の多年の活動が、子ども2人の上院当選、ドゥテルテ家との接近、マルコス元大統領の遺体の英雄墓地埋葬など着実に実を結んできたと指摘。そうした土台に、経済格差を温存したエドサ革命(2月革命)以降の自由民主主義体制下で鬱積した庶民のエスタブリッシュメント(支配階級)に対する不満が、ソーシャルメディア上のマルコス政権理想化の言説と結びつくことで、米国の「トランプ現象」と酷似した現象が発生していると整理した。

▽事実上の「サラ12年政権」も

 現時点でボンボン氏は最も当選する公算が高いものの、ドゥテルテ大統領からは「弱いリーダー」と名指しで批判されている。同氏が大統領になった場合どんな政権になるかについて、柴田氏は「本人でなく周囲の人物が政治の実権を握るのでは」と予想。その候補として、サラ・ドゥテルテ副大統領候補、アイミー・マルコス上院議員、妻で法律事務所「M&アソシエーツ」共同設立者のルイス・マルコス弁護士を挙げ、「誰が舞台回しをするか見極めが必要」と指摘した。政策面としては現政権の政策が継承される見込みのため「あまり変わらない」ものの、貧富の格差、汚職、麻薬のまん延などは「解消されないか悪化するだろう」とした。

 また、石山永一郎主任研究員=「REAL ASIA」編集長=は「ボンボンは政治的センスではサラに敵わない」とサラ候補の政治的嗅覚(きゅうかく)の鋭さを指摘。「ボンボンを影で操りながら6年間政治を主導し、その後は自身が大統領選に立候補、都合12年政治の中枢に君臨することもありえる」とサラ氏の政治的野望を考察した。

 一方、参加したジャーナリストの大野拓司氏は、マルコス政権下のフィリピンを知る立場から別の観点を提示。「戒厳令前の治安の悪さを経験した人にとって、マルコス大統領がそれを抑え込んだというのは大きなインパクトがあった」とし「私はマルコス支持者ではないが、特にマルコス大統領が体を壊す75~76年までは、歴代大統領と比較しても優れた大統領だったと思う。(エドサ革命後の)コラソン・アキノからノイノイ・アキノまでのエリート出身の大統領が、国民の期待にほとんど応えられなかったことへの失望が(ボンボン氏の高支持の要因として)大きいのではないか」と指摘した。

 アジア政経社会フォーラムは月例ウェブ講演会を実施予定。来月28日は神戸市外語大の木場紗綾准教授=比政治、国際協力政策専門=を招き「大統領選の結果の分析と新政権の展望」をテーマに開催する。公式サイトURLはhttps://www.apesjapan.com/

(竹下友章)

政治 (politics)