タイ騒乱を教訓に
貧富格差と社会変革
3月中旬からタイの首都バンコクなどで続いた騒乱で、タクシン元首相支持団体「反独裁民主統一戦線」(UDD)は、貧富格差が拡大する社会構造の変革を掲げ、国会解散と総選挙を要求した。これに対し、現政権側は軍隊によるデモ隊制圧に乗り出し、死者約40人、負傷者数百人を出す事態に至った。
UDDの支持者は都市や農村部の貧困層が中心。証券取引所や大型商業施設、テレビ局を狙った略奪、放火を繰り返し、拡大するエリート支配への不満を爆発させた。タイ国民が過去数十年を費やして築いた「経済成長の成果」は、暴徒らの破壊行為の前にもろくも崩れた。
タイ社会では、国王が国民統合の象徴として君臨していきた。一方で、その「王室ビジネス」は肥大化の一歩をたどり、貧富格差の拡大を助長する一要因となった。UDDの「赤シャツ隊」が、国王らの築いてきた社会の変革を要求し続ける中、82歳となったプミポン国王は、国民をまとめるという伝統的役割を果たすことができなかった。
数十年前、タイとフィリピンはともに農業を基盤とする発展途上国で、総人口や貧困層の比率、経済的潜在力などがほぼ同等だった。近年では、不安定な政情、国軍の冒険主義、反政府勢力の活動活発化が両国の共通点となってしまった。
比では1986年以降、「ピープルパワー」という政変で2人の大統領が生まれ、次期大統領となるアキノ上院議員も選挙活動中、「大統領選で落選したらピープルパワーを結集する」と公言する始末だ。
タイ騒乱が物語るように街頭の抗議行動は民主制度の欠陥を露呈、破壊的かつ非生産的影響をもたらす。アキノ次期大統領は同騒乱を教訓に、国民を一つにまとめることから始めなければならない。(20日・スタンダードトゥデー)