「正当な雇用」実現を
ILOへの期待
「正当な雇用」の普及を世界規模で推進している国際労働機関(ILO)がこのほど、フィリピンを含む四カ国を実験国として選定した。「正当な」は英語の「decent」の意訳である。「上品さ」は意味しない。すべての労働者に対し権利保障の基盤整備を通じて公正な雇用をもたらすのが狙いだ。
わが国には三百五十万人もの児童労働者が存在し、そのうち二百二十五万人は危険で劣悪な環境での労働を強いられている。子供だけでなく、成人の労働環境も整備されているとは言い難い。物売りやトライシクル運転手など、所得税を納入しない零細な事業に従事する労働者には、労働基準法は適用されていない。労働組合の組織率も低いままだ。
さらに、セクシャル・ハラスメント(性的嫌がらせ)は日常的で、労働者がエイズに罹患(りかん)しても適切なケアはなされない。職場の安全性さえ保たれていないのが現状だ。第一、監督官庁である労働雇用省の人員が不足しているのだ。
このようにフィリピンが抱える労働問題は深刻だ。ILOは政府の姿勢を酷評する一方で、解決策を提示している。最も興味をそそられるのは、雇用を促進させる生産性の実現が重要との指摘だ。もちろん、われわれもこの問題には幾度となく取り組んできたが、生産性は低いレベルにとどまっている。おそらく、ILOなら目新しい方策を示せるのではなかろうか。
とはいえ、インフォーマルセクター、つまり不安定で低所得な零細分野に従事する労働者を保護するための法整備が実現するのは困難かも知れない。ILOにはパートナーとしてではなく、政府に対して厳しく要求する姿勢を望みたい。(17日・タイムズ)