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3月30日のまにら新聞から

台風ヨランダ(30号)

[ 1176字|2014.3.30|気象 災害 (nature) ]

日本の災害研究者らが台風ヨランダの被災地を訪問し、自治体関係者らに助言

台風ヨランダ(30号)被災地のビサヤ地方サマール州バセイ町で、支援スタッフに講演する久利美和講師(右)と地引泰人助教(左)=10日、同町で写す

 京大や東北大の災害研究者がこのほど、台風ヨランダ(30号)で甚大な被害を受けたビサヤ地方サマール島を訪れ、効果的な防災対策のほか、時間がたてば被災者の精神的負担が増すことに注目した「心のケア」の問題を自治体関係者や支援団体に助言した。

 訪問したのは、京都大学地域研究統合情報センターの山本博之准教授(48)、東北大学災害科学国際研究所の久利美和講師(45)、同地引泰人助教(33)ら5人。8日から同島に入り、13日まで被災地などの自治体を回った。

 10日には被災地のサマール州バセイ町を訪問し、現地で支援活動を展開しているキリスト教系非営利団体(NPO)「ソーシャル・アクション・センター」(本部・ビサヤ地方アルバイ州レガスピ市)のスタッフら約30人に日本での研究内容を紹介、防災方法や支援での留意点を話した。また、12日にも被災地支援活動に積極的に関わっている同州カルバヨグ市で同市職員ら約30人に同様の講演を行った。

 2011年3月に発生した東日本大震災で自らも被災した久利さんと地引さんは、自身の体験を交えながら、地震や津波の発生メカニズムを解説。災害発生時に、迅速に避難を住民に呼びかける方法を議論する必要があると訴えた。

 地引さんは、公共施設や各自治体の広場などに設置されているスピーカーでの避難呼びかけが東日本大震災の際に効果を発揮したと話し、「維持費が必要なスピーカーの代わりに、教会の鐘を避難呼びかけに利用してはどうか」と提案した。

 久利さんはマニラ新聞の取材に「台風接近時、職員が『ストームサージ(英語で高潮の意)が来る』という表現を使用して避難を呼びかけたと聞いた。しかし、単語になじみがなかった住民はまともに避難しなかった。政府や自治体は、平時から災害に関する知識の普及を心がける必要がある」と指摘した。

 インドネシア・スマトラ沖地震(04年12月)の被災地を長年調査している山本さんは、現地で起きた事例を挙げながら、台風の被災地で今後起こりうる問題を提示した。

 山本さんによると、被災から時間が経過するにつれて、被災者の負担は肉体的なものから精神的なものへと変わっていく。

 地震とその後発生した津波によって同国のアチェ州では死者が十数万人に上った。被災直後は食糧や収入など、緊急の課題に悩んでいた被災者は、1年以上が経過すると、次第に亡くなった肉親や知人を思いだすようになってきたという。

 たとえば、娘を亡くした夫婦は、入居していた仮設住宅を改装し、雑貨店を経営した。店名に娘の名前を付け、娘に着せたかった服や好物のだ菓子を売るようになった。

 山本さんは、ほかにもアチェ州の被災者の様子を伝え、長期的には被災者の「心のケア」を考慮に入れて支援を行う必要があると指摘した。(加藤昌平)

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