台風ヨランダ(30号)
タクロバン市で露店の営業が再開。電気なく、冷蔵・冷却用の氷の売り上げが増加
台風ヨランダ(30号)襲来で壊滅的な被害を受けたビサヤ地方レイテ州タクロバン市。被災から1カ月がたち、物流が回復するとともに、高潮で破壊された公共市場の周辺などに生鮮食品の露店が並び始めた。大型商業施設の閉鎖が続いている中、いち早く営業を再開した露店や食堂、雑貨店「サリサリストア」など小回りがきく個人商店にとっては商機が到来しているようにさえ見える。同市内では、まだ電気が復旧していないため、商品を冷却・冷蔵する氷の需要が高まり、値段が高騰している。
フェイ・ビカルドさん(26)は台風後、いったんセブ州に避難したが、露店が開き始めたというニュースを見て、タクロバン市に戻り、夫のジェフリーさん(28)と酒屋の営業を再開した。
店内では934ペソで仕入れたブランデーを1ダース当たり1200ペソで売っている。1日50ダース売れたこともあるという。フェイさんは「大型商業施設が営業を再開すれば、値段を下げざるを得ない。それまでは、このままで売ります」と笑顔を見せた。
11日からは、発電機を売り始めた。夫がセブ市まで行って、発電機を1台7800ペソで仕入れてきた。1台当たり4200ペソのもうけを乗せて、1万2千ペソで売っている。売り始めて、もう3台が売れたという。
台風で冷蔵施設が軒並み破壊されたため、多くの商店は売り物の商品の冷却や冷蔵に氷を使っている。飲食店に冷たい飲み物がないこともしばしばある。フェイさんによると、毎朝、大型トラックに乗った氷販売業者が氷を売りにやって来る。縦約20センチ、横約40センチ、高さ約15センチの氷は台風前240ペソだったが、今では10倍の2400ペソまで跳ね上がったという。
台風通過後から路上で氷を売り始めたビボイ・バレラさん(18)は、毎日午前3時に起きて、サマール州カトバンロガン市まで、車で氷を買いに行っているという。16キロ800ペソで仕入れた氷を、2キロに小分けして、1袋50ペソで売っている。
市役所の近くで食堂を営む女性によると、台風前は肉なども大量購入して冷蔵庫で保存できたが、今では1日で売り切らなければならない。しかし、客足は好調で、売り上げは約2千ペソ増えたという。
炎天下の中、半壊したコカコーラ社の前に長蛇の列ができていた。サリサリストアを営む、ジョアン・ボスロン(27)さんによると、コカコーラ社は台風後、一人当たり2ダースを上限に、商品を卸値で販売している。値段は1・5リットルボトル1ダースが240ペソ。ボスロンさんは、1本20ペソで仕入れたコーラ1・5リットルボトルを、冷えたものは1本100ペソ、ぬるいものは80ペソで売っているという。ボスロンさんは「台風通過から約2週間後に営業を再開したが、売れ行きは好調ですよ」と笑顔を見せ、汗を拭いた。
がれきが残る町並みに商いが復活し始めるとともに同時に、震災後ならでは新商売も登場した。その一つが、小型発電機から延長コードを何本もつなげ、プラグ差し込み口1カ所を3時間20ペソで売る商売。露店には、携帯電話や懐中電灯を充電する被災者の姿があった。(鈴木貫太郎)