比中共同探査協議再開へ まず基本的な枠組み策定
マナロ外相「南シナ海の比中共同資源探査の技術レベル協議を6週間後にも再開する」
マナロ外相は3月30日、南シナ海(比名・西フィリピン海)における石油・天然ガス共同探査に関する協議が、6週間後には再開される見通しであることを明らかにした。協議は技術的なレベルで再開し、比中合弁企業による共同探査を念頭に、まずは基本的な枠組みとなる取り決め事項(TOR)の策定を目指す。
同相は「われわれが交渉を担っている共同探査は常に比憲法に沿っており、憲法に従って次の交渉を行うことになる」と説明。まだ技術的な調整段階で、新たな合意文書への調印は行っていないとした。
親中派とされたドゥテルテ前政権でも憲法の制約に阻まれ交渉を中断していた比中共同探査計画が、マルコス新大統領の公式訪中の「早期の協議再開」合意を経て、実務レベルで再度動き出した格好だ。
南シナ海の海洋資源共同探査を巡っては、ドゥテルテ前政権下で、推定200億ドル相当の天然ガスや石油の埋蔵が推計される南沙諸島のレクト堆(英名・リード堆)を念頭に共同探査が模索されてきた。
同堆はパラワン島の西約200キロにあり、比の排他的経済水域(EEZ)内。前政権は、南シナ海に関する中国の主張を全面的に退けた2016年仲裁裁判所判断を棚上げにする形で中国との交渉を進め、2018年11月20日に政府間合同実行委員会、企業間作業部会の設置で基本合意。
その後、中国から提案された「比60%、中国40%の取り分」に基づき交渉が続けられたが、19年の会合で課税を含めた法的メカニズムで合意に至らず交渉が中断。政権末期の22年6月に「可能な限り憲法の下で可能性を探ったが、比の主権を犠牲にできない」とし、比側から交渉打ち切りを宣言していた。
▽高い憲法の壁
また、最高裁大法廷は1月10日、大統領公式訪中から5日後のタイミングで、アロヨ政権下の2005~08年の期間内に実施されていた比・中国・ベトナム3国石油公社による南シナ海海底調査に関する合意に違憲判決を出した。
同調査は地震に関する地質学的調査だったが、合意の中に「3カ国石油公社は石油探査に関わることを希望する」という条文があり、それが憲法12条2項の「全ての天然資源は国が所有し、その探査、開発および利用は完全な国の管理・監督下に置く」という部分に抵触した。
比中合同資源探査についても、設置される政府間合同委員会が探査事業の「管理・監督」の主体に当たるのであれば「完全な国の監督・管理」という部分に抵触する可能性がある。
一方、12条2項は国内資本率60%以上の合弁企業等に資源の「探査、開発および利用」を委任可能としている。比中共同調査計画に関して中国が提案したという比60%、中40%という配分は、この条文を意識したものとみられる。
しかし、同12条2項は海洋資源についてさらなる制約を設け、「群島水域、領海およびEEZ内の海洋資源は、国が比国民による排他的な利用・享受を確保する」と付け加える。文理解釈上はレクト堆で採掘した天然ガスや石油を中国側が取得することを不可能とする内容であり、「合憲かつ中国側が飲める条件」への到達は極めて困難とみられる。(竹下友章)