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7月13日のまにら新聞から

インタビュー コロナ禍で法令整備進まず 自治政府 治安、電力にも課題

[ 1566字|2021.7.13|社会 (society) ]

国際協力機構の落合直之氏に聞く。バンサモロ・イスラム自治政府の正式発足に遅れも

国際協力機構の落合直之氏

 ミンダナオ地方のバンサモロ・イスラム自治政府の正式発足が予定されていた2022年より遅れる可能性が高まっている。国際協力機構(JICA)の専門家で暫定政府のムラド首相代行のアドバイサーを努める落合直之氏に最新の情勢を聞いた。(聞き手は石山永一郎)

 ─イスラム自治政府の正式な発足を25年に遅らせる法案が議会に提出されたが。

 自治政府の運営に最も重要な6つの条令のうち(1)行政(2)教育(3)公務員──3分野の条令はバンサモロ議会で可決されたが、(4)地方自治体(5)選挙(6)歳入──3分野の条令がまだ定まっていない。主な理由はコロナ禍で、80人いる議員をなかなか招集できず、オンラインなどによる審議にも限界があることが大きい。特に選挙に関する条例が整備されない限り22年の自治政府選挙ができない。一方、下院の法案の審議も進んでおらず、25年への延期は正式に決まっていない。

 ─自治政府発足に向けてほかに課題は。

 いろいろある。一つは17年に南ラナオ州マラウィ市が「イスラム国」(IS)の影響を受けたマウテ・グループに占拠されたように、自治政府域内に過激思想を持つ者が潜むようになったと言われており、治安面の懸念が未だに払拭されない。モロ・イスラム解放戦線(MILF)が政府と和平交渉することに反対して分派したバンサモロ・イスラム自由戦士(BIFF)は国軍との戦闘を繰り返している。インフラ面では道路や水供給、電力供給も課題だ。

 ─MILF兵士の武装解除や軍・警察への編入は進んでいるのか。

 武装解除はさまざまな問題を抱えながら進んでいるが、警察組織への編入は今後の課題。警察は法の執行機関であり、警察官に採用するには一定の能力と資格が必要となる。国軍には元MILF兵士は加わらないことになっている。

 ─自治政府内の裁判では被告らが共和国法かイスラム法のいずれを適用するか選択できると定められているが、イスラム教徒とキリスト教徒との間で民事、刑事の裁判が起きた時、どちらを適用するかで争いが生じないのか。

 そういうことはあると思う。ただ、共和国法に基づく司法、イスラム法に基づくシャリア法、現地の規律や慣習に基づく長老会議や自治体首長による調停制度など、以前から様々な方法で争いが解決されてきた。適用される方法は、当事者が誰であるかによって自然に決まっていくと考えられる。

 ─日本政府はミンダナオ和平には長年貢献してきた。今後の支援はどういう形になるか。

 5月に行われた菅義偉首相とドゥテルテ大統領との電話による首脳会談でも、同大統領から日本のミンダナオ和平支援に対する感謝があった。バンサモロ自治政府は大統領制ではなく議院内閣制。フィリピンでは議院内閣制はなじみがなく、明治時代から続く議院内閣制の日本の経験と知見を伝えることができると考えている。

 ─イスラム自治政府地域は、埋蔵資源が非常に豊かで将来的発展の可能性は高いと聞くが。

 石油と天然ガスが豊富にあると言われており、その資源の配分は共和国と自治政府で等配分と定められている。石油の具体的な埋蔵地としては北コタバト、マギンダナオ、スルタンクダラットの3州にまたがるリグアサン湿地が知られている。しかし、この湿地の一部にはBIFFが拠点を構えており、現状は容易に資源開発を進められる状況ではない。ミンダナオ紛争が半世紀以上続いてきた背景には、この地域に豊富に眠る地下資源の存在もあったと言われている。

 おちあい・なおゆき 1963年横浜市生まれ。91年、国際協力機構入構。94〜98年、2010〜12年、15〜18年の3回、フィリピンで勤務。21年から4回目の勤務。この間、2003〜07年にヨルダン事務所勤務。

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