邦人医師3月から不在に 「医療難民化」の不安広がる
日本人会診療所の日本人医師不在に。邦人社会で医療難民化の不安広がる
マニラ日本人会診療所(マカティ市)のアドバイザーだった菊地宏久医師が2月末に日本へ帰国し、同診療所は日本人医師不在となっている。診療所にはフィリピン人医師が引き続きいるが、診療所が入居するビル側の要請で、健康診断などを除いて一般患者の受け付けは停止している。コロナ禍で首都圏の病院の満床状態が続く中、在比邦人の間では、病気になっても治療を受けられない「医療難民化」への不安が広がっている。
日本人会の大竹眞一事務局長によると、菊地医師は財団法人・海外邦人医療基金(JOMF)から派遣され、報酬の一部を日本人会が負担する形で勤務していた。しかし、JOMFが3月で解散、日本人会は菊地医師に報酬の全額負担も申し出たが、菊地医師は帰国を選択したという。
JOMFは、医療施設が不十分な国に在留する邦人のため日本から医師らを派遣する財団だったが、途上国の医療事情もかなり改善したとして3年前から解散を予定していた。
大竹事務局長によると、高層ビル内にある診療所は「コロナ禍でビル側の管理が厳しくなり、熱があるなど体調不良の人がビル内に入れなくなった」ため、現在は予約制健康診断と予防接種だけを行っている。
これに対し、日本人会会員の男性(40)は「英語で症状を訴えることが苦手な日本人も多く、診療所に日本人医師は必要だ。また、ビル側の事情で診療ができないなら移転も考えるべきでは」と話す。
▽日系企業も不安の声
日系企業駐在員の間でも首都圏の医療事情への不安の声は高まりつつある。三井住友銀行の繁井健太郎マニラ支店長は「医療事情への不安は日に日に募っているが、日系企業を含め顧客がいる限り、支店の営業を止めるわけにはいかない」と話す。同店ではテレワーク導入などで感染防止に努めているが、繁井氏自身は「立場上、出勤を続けている」。現在の状況は想定外で、社員が必ず受診できるような医療機関との特別な契約などはないという。
日本人会会長の細谷明宏・全日空マニラ支店長も「厳しい状況になっており、うちもテレワークを導入しているが、私自身はなかなかそういうわけにはいかない」と話す。また、新型コロナに感染した邦人が、日本で緊急治療を受けたいと希望しても「現在は搭乗前のPCR検査を乗客に義務付けているため、搭乗していただくことはできない」とも説明した。
在比日本大使館は首都圏の医療危機について「日本外務省にも非常に切迫した状況であることは伝えている。しかし、日本人医師を急きょ呼ぶなどの対応をしても、比では医師として活動できない」とした上で、邦人保護の観点から「何ができるか検討を続けている」と話している。(石山永一郎)