「一時帰国支援を進める 残留日系人問題で外相明言
塩村議員の質疑に対し、岩屋外相が「残留日系人の一時帰国支援を進める」と議会で明言
岩屋毅外相は19日、参議院外交防衛委員会で、無国籍状態となっている残留日系2世の日本への一時帰国について、「日系2世が高齢化する中、希望者の一日も早い国籍回復や一時帰国に向けた支援を進める必要がある」と答弁し、さらに「残留日系人の本邦への渡航は、親族探しを通じて国籍回復に必要な情報を得るためにも重要な機会の一つ。今後とも関係省庁を連携し、対策を講じる」と明言した。残留日系人問題に取り組む塩村あやか議員(立憲民主党)の質問に対し答弁した。日本人と比人の間に生まれ、無国籍状態となっている日系2世を対象とした一時帰国事業は、これまで民間団体(日本財団)の協力やクラウドファンディングを通じて実施されたことはあるが、政府予算で行われたことはない。
塩村議員は、「当事者の高齢化が進む中、希望する方々の一日も早い国籍回復や一時帰国に向けて比政府と意思疎通をしながら積極的に支援をしたい」という、上川陽子前外相が6月28日の定例会見で行った発言を引用。新内閣発足に伴い就任した岩屋新外相の見解と、現在の取り組みをたずねた。それに対し岩屋外相は、残留日系人問題に積極的だった前外相の方針を引き継ぎ、一時帰国事業に取り組むことを議会答弁というより高いレベルで確認した。
塩村議員は昨年、NPOフィリイピン日系人リーガルサポートセンター(PNLSC)の猪俣典弘代表と共同でクラウドファンディングを募り、無国籍状態の残留2世、香村(アカヒジ)サムエルさん、金城ロサ(マサコ)さんの沖縄への「里帰り」を実現。これを契機に、親類と名乗り出た一家から、位牌の系統図や父親とみられる人物の写真が見つかった。そうした新証拠もあり、サムエルさんは11月15日に日本国籍への就籍が家裁から認められた。
塩村議員は同委員会で、「存命の残留2世は激減し、去年一時帰国を希望していた2世が、今年は渡航できない状態になるということを目の当たりにした。80歳を超える方々の1年は重い」と現状を説明。「とにかく対応を急いでほしい」と訴えた。
▽ボトルネックの解消
岩屋外相は外務省の取り組みとして、「残留日系人の身元確認につながる実態調査の予算をここ4年間で約6倍に拡大しており、2016年以降、実態調査に在比日本大使館員、領事館員を立ち会わせ、調査の内容を証明する証明書を発行してきた」とした上で、直近の成果として「わが方の働きかけの結果、比側で残留日系人の就籍や帰国のための手続きに要する書類の発行要件が緩和された」と答弁した。
比統計局は今月、フィリピン日系人会連合会(イネス・マリャリ会長)の審査委員会が発行した証明によって、残留2世の遅延登記を認めることを定めた通達を公表。戦前・戦中生まれの無国籍状態残留2世は、自身の出生などを証明する書類を戦火で消失したり迫害逃れのために処分した例が多い。さらに「遅延登記」制度を利用し登記し直すにも、両親の結婚の立会人など当事者より高齢の証言が必要とされ、80歳を超える当事者の遅延登記はほぼ不可能な状況に陥っていた。
そうした書類は、日本の家庭裁判所を通じた就籍申し立ての証拠書類となるほか、パスポート代わりとなる渡航文書発給の要件でもあり、今回の新通達で最大のボトルネックが解消されたことになる。(竹下友章)