上院外務委員会は10日、ドゥテルテ前大統領の逮捕と国際刑事裁判所(ICC)への身柄引き渡しの合法性を調査する公聴会を開催した。先月11日にドゥテルテ氏が逮捕されたことを問題視するアイミー・マルコス委員長によって開かれた同公聴会は今回で3回目。今回の公聴会では、アドルフォ・アズクナ元最高裁判事が「ドゥテルテ氏の引き渡しは違法であり、政府はその結果に直面する」との主張を展開した。
アズクナ氏は、国際人道法に反する犯罪に関する法律(共和国法9851号)に基づき、フィリピンは国内法上もICC脱退後も一部義務が残存していることは認めた上で、「(ICCの根拠条約である)ローマ規程に従うと、拘束する権利のある国、つまりフィリピンがまず逮捕された者を国内裁判所に連行し、本当に逮捕状に記載されている人物かどうか、そしてその人物が自分への容疑を知らされているかどうかの2点を確認しなければならないが、その確認は行われてない」と主張。「私の意見では、身柄引き渡しに違反行為があった」との解釈を示した。
その上で、「逮捕に違法性があったからといって、必ずしも逮捕されたものが釈放されるわけではない」と発言。「ICCは逮捕の違法性と訴追手続きとのバランスを取るだろうが、かれらは訴追手続きを優先するだろう」とした。
公聴会でアイミー委員長は、当局が国内裁判所の命令なしでドゥテルテ氏の身柄を拘束し、ICCに引き渡した事実を追及。出席したレムリヤ司法相は、「ドゥテルテ氏はICCに引き渡されたのであり、法律の定める(令状の必要な)『送還』ではない。ICCへの引き渡しが唯一の方法だった」と答弁した。また、「法の適正手続(デュー・プロセス)や権利を定める憲法3条に違反しないか」との委員長の質問には「ICCは7年をかけて適正な手続きを進めてきた」と回答した。
3日に開かれた第2回公聴会では、ベルサミン官房長官が「閣僚には閣議で議論された内容を非公開とする行政特権がある」との書簡を送付し、全閣僚が欠席。これに、アイミー氏は「行政特権を利用して真実が隠ぺいされようとしている」と反発し、ドゥテルテ政権で警察長官に抜てきされ「麻薬戦争」を指揮したロナルド・デラロサ現上院議員も「憲法が規定する(3権の)チェック・アンド・バランスが危機にひんしている」と非難するなど、事実上、上院の親ドゥテルテ派による政府追及の色合いの濃いものになっている。
アイミー氏が率いる上院外務委員会は3月27日、初期調査報告書を発表。ドゥテルテ氏の逮捕に関し、憲法が規定する自由の保護と適正手続きの保障が守られておらず、「目立った権利の侵害があった」とした。
さらに同報告書は、政府が国際刑事警察機構(インターポール)から受け取ったのは、赤手配書(国際逮捕手配書)でなく、国際協力要請(ディフュージョン)だったという事実を認定し、「比政府はドゥテルテ氏を拘束し、ICCに引き渡す法的義務を負っていなかった」と結論付けた。3月20日に開かれた第1回公聴会では、比国境犯罪センターのアルカンタラ事務局長が、比政府はインターポールから「赤手配」は受け取っていないものの、それに相当する「赤色国際協力要請(レッド・ディフュージョン)」を受け取ったと証言している。(竹下友章)