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関係構築の秘けつは「あざとさ」 JICA坂本威午前所長インタビュー(上)

2025/3/27 社会
インタビューに応じる坂本威午所長=3月、首都圏マカティ市JICA事務所所長室で竹下友章撮影

JICAフィリピン坂本威午前所長帰任前インタビュー(上)。現地政府との信頼関係、人間関係構築の秘けつを語る。

地政学的重要性のますます高まるフィリピンで、持ち前の明るさとコミュニケーション能力を武器に比閣僚に溶け込み、日本の対比協力を大幅に前進させた国際協力機構(JICA)フィリピン事務所の坂本威午前所長が、3年の任期を終えて今月末に帰任する。比政界だけでなく、比で事業を展開する日本企業の間でも大きな存在感を示した同氏は、大きな仕事を成し遂げる上で何を重視しているのか。今月JICAフィリピン事務所で行ったまにら新聞の単独インタビューで、自身の考えを語った。(聞き手は竹下友章)

 ―この3年間で成し遂げたことは。

  事業ベースでいうと、新規案件を70件くらい立ち上げた。これはかなり頑張った協働の成果だと誇りに思う。それと、着任時に停滞していた案件が実はあって、例えば、JICA事業としては完了案件の扱いであっても、比側が引き継ぎ自己予算でやる部分が残っていて、数年単位で引きずっているようなケース。例としては灌漑(かんがい)関係。それを一つ一つ片付けていってて、そういう今までの喉に刺さっていた骨、仕掛りの案件のめども立てられてきた。

 また、JICAの民間連携事業は、着任時はベトナムやインドネシアが大どころの対象国だった。 着任後、メディア発信も含めて種々セールスに努めて、結果、22年のフィリピン向け民間連携事業は 応募者数も採択者数も前年比倍増、いきなり世界2位になり、23年には金額規模が世界最高になった。24年は件数・金額ともに落ち着いたが、前広なJICAへの内談案件が旺盛に寄せられた。一緒に質の高い案件を日本企業と作り上げていくのに非常に忙しくなったが、日本企業のやる気が強く感じられた。

 その他、8~900名の研修員を比政府から受け入れ、能力強化を図るとともに日比両国をつなぐ人材の増強に腐心した。ボランティアも、(コロナ禍もあり)着任時ゼロだったのが約20人の派遣が実現できた。

 ―事業を大幅に前進させるにあたって重要なことは。

 二つあって、まず一つは信頼関係。「JICAに会って話を聞きたい、JICAに会うとこんなメリットがある」と思ってもらえる関係を作ることで前に進められる。ある比財務次官は、「金利の低さや金額の大きさなどがドナー選択のキーポイントではない。重要なのは丁寧な解決に向けた包括的な協働姿勢」と言っていた。彼は「その点でJICAは最高」とまで言ってくれた。

 私のモットーは、相手の立場に寄り添うこと、相互理解と相互尊重。こうした点で他パートナーとも差別化されている。そして結果として、比較的円滑に最大の効果が出ると同時に、コストも下がる。そこの基になるのは結局信頼。信頼というのは、「困った時の友こそ真の友」という諺通り。そして、真の友人は、相手にとってたとえ耳の痛いことでも言ってあげる友人のことだ。

 ―比の「伝統的な三つの課題」をずっと指摘している。

 22年3月に着任したばかりの翌4月、前政権の大規模インフラ開発政策「ビルド(建設)・ビルド・ビルド」(BBB)の推進イベントに呼ばれた。そこで私は「JICAはこれまで以上にインフラ協力を進める」と言いつつ、最後に「ただし」と付言したのが、①迅速な用地取得②請負業者へのタイムリーな支払いと予算措置③意思決定プロセスの迅速化・予見可能性――という3点への比側の責任対応の要望だった。

 その後もその問題意識を3年間ハイレベルにもガンガン言い続けた。そうするとだんだん皆も、なるほど、何とかしなければ、となってきた。 国家経済開発庁(NEDA)のバリサカン長官に至っては、「レガシー・プロブレム(伝統的な課題)が三つあって……」とあたかも自分がそれを分析・提唱したかのように言いはじめた(笑)。おかげで昨年3月に、用地取得迅速化のための省庁間委員会を作る行政命令19号が出た。昨年4月には、インフラ旗艦事業の許認可プロセスを迅速化する大統領令59号も出た。もう一つのタイムリーな支払いについては、予算配分の適切化が進展した。

 ―予算確保のためにどのような働きかけをしたのか。

 私が来る前、 政府原案のインフラ予算が議会で大幅に削られたことがあった。受注日本企業も みんな悲鳴を上げていた。 働いても金を払ってくれない。そもそも予算がついていないと。「撤退やむなし」と大きな騒ぎになっていた。なので着任して、当時のカンダ予算管理相代行とオンライン会議をすぐに行い、 財務省、運輸省、公共事業道路省とも大臣クラスで議論して、補正予算枠の活用に向けて迅速な申請対応を促した。

 でも当初は、どの省も、「人手がない」とか「忙しい」とか。だからうちの所員が、一つ一つのトランザクションについて予算管理省、運輸省、公共事業道路省等をつなぎながら「ここまでやるか……」というくらい丁寧に確認・調整して、同時に、私が運輸相等に「早く持っていかせるべき」と具申して、で、予算管理相にも「いついつ申請が来るから、確実に受け取り、受け取ったらさっさと予算を手当できないか」等と調整して、その何バッチかの補正予算によって、とりあえずようやくなんとか一息つけた。

 こんなドタバタ弥縫(びほう)策を翌年も繰り返してはいけない。予算の編成サイクルに沿って予防的に前広に手をうっておくべきだと。予算編成は、毎年6月ぐらいに各省からの予算要求を予算管理省がまとめ、NEP(国家支出計画)を作り、8月下旬から議会にかけられ、年末に成立するという流れ。そこで翌年に必要な予算要求の積み上げを、うちのチームがまたまた「本当にこんなとこまでやるか」というぐらい、運輸省・公共事業道路省と一緒に詰めた。寄り添って、家庭教師的に。

 ただ、マルコス政権とタッグを組んで翌年度のNEPに必要な資金を全部織り込ませても、その後議会で削られるとしょうがない。そこで、越川大使=当時=が22年8月にズビリ議長=当時=含めて8人の上院議員を公邸に招いて食事会を開いた際に、二人がかりで必死に説明・説得し、上院24人のうち3分の1の理解獲得に努めた。

  日本には信頼がある。われわれには熱量もある。あとはロジック。公共事業道路省・運輸省は例年、予算の執行率が低いので、 「予算つけたって使い切れないだろ」と要求予算案がカットされがちだが、JICAのODA事業は信頼できる日本企業が着々と事業を進めているから、執行率が低くなることはない。議員にも実際に、南北通勤線や首都圏鉄道3号線(MRT3)や首都圏地下鉄などを見てもらったりして、「ほら動いているでしょ」と説明した。 さらに、「予算つかないと遅れるよ」と畳みかけた。 「予算が不足すると、あなた方の政権の目玉政策であるBBM(ビルド・ベター・モア) が進展しない。深刻な渋滞が解消しない。生活環境も経済成長も好転しない。あたながたの懈怠(けたい)・失策と言われるよ」と。一方、「これが進むと、雇用も創出されるし、MRT3・ 南北通勤線・ 地下鉄だけでモーダルシフトにより毎年100万トンの温室効果ガスの削減にもつながるんですよ」といったような話もして。

 加えて、「約束を守り、 契約履行対価をキチンと支払い、信頼される国になれるかどうかが、今後の投資誘致の分水嶺になるよ」とも強調した。これからいつまでも全部パブリックだとかODAというわけにはいかない。ビジネスに来てもらわなきゃいけないので、 マーケットにも信用してもらわなきゃいけないでしょと。そのためには、まずは契約に基づいて支払うことだと。皆もっと投資を誘致して、雇用も作りたい。この国は人口ボーナスが世界最長だけど、逆に言うと、雇用を作らないと社会不安が起きる。これを散々言ったんですよ。いろんな場面で、サブリミナルに、ハイレベルに。

 実は、22年の9月も、下院審議で案の定ODA事業の予算が削られたことがあった。次は上院。そして11月、JVエヘルシト上院議員が「ODAインフラ予算をなんで削ってるんだ」と、私が言ったようなロジックで吠えた、という情報を察知した。週末だったが、さっそく越川大使に連絡を取って、手分けして、上院議員や大臣にメールやらレターやら電話やら絨毯(じゅうたん)爆撃のようにしまくった。直後に大使公邸で開かれた文化交流の催し物で、両院議長や上院議員、当時のジョクノ財務相とかが集まった際にも、また、越川大使とタッグを組んで一人ずつ捕まえて、ワーッと説明した。すると上院議長も下院議長も「大丈夫、バイカム(両院協議会)で戻すから安心して」と請け負った。厳密に言えば、一部補正予算を申請しないといけない部分もあったけど、実際バイカムで予算がなんとか戻った。

 それを受けて、12月16日に大統領が予算法に署名した。フィリピンは、翌年1月1日から23年予算が始まり、各省庁は3日くらいに始業する。そこからよっこらしょと、運輸省の人が補正予算の申請書類を作って滞留しながら省内決裁を取ったりするのにまた時間をかけて……ということだと支払いがさらに遅れる。だから22年内には申請書類をセットしておくよう運輸省に働きかけた。当時のバウティスタ運輸相にもすぐ連絡をとって、予算管理省に速やかに申請書類を届ける人も手配しておいて、初出勤日の勤務開始時間に予算管理省の門が開くのを待たせるよう、強く促した。パガンダマン予算管理相には、「開門時間に腹心を門によこして、運輸省の人が待ってるから申請書類を受け取って、優先処理してくれ」と。

 国際ルールでは受注企業からの支払い申請受領後約50日以内に支払わないといけないのに、以前は100日くらい平気でかかっていた。それがこの時は、20数日で支払われたと記憶している。日本企業はうれしくて安堵するし、やる気も出る。東京の本社から「そんなの取り立てられなくてどうするんだ、引き上げろ」と言われていたのが、本社を説得できるようになる。さらに、次の入札には手を挙げようとか、向こうからの要望に柔軟に対応しようとかなる。そうなると運輸省も公共事業道路省もうれしい。議員は議員で自分たちの時代に進展を実現・アピールでき、皆ハッピー。ウィンウィンゲームです。

 これは、「こうやると上手く回るよ」というのをオン・ザ・ジョブ・トレーニングの要領で家庭教師的にやっているということ。こうすると信頼が増すんです。さっきご紹介した比財務次官のコメントにもつながる。

 ―信頼関係のほかに重要なことは。

 個人的な人間関係・ネットワークも重要。人脈構築、情報収集、対外発信の重要性を強調した書籍を先日読んで、まさしく、と膝を打った。日頃から関係を作っておけば電話やメール一本で片付くのに、その関係が構築できてないから交渉も調整もできない、アポも取れない、とかね。人間関係を作って機微な情報を取ってきて、それを元に日頃から効果的対応をとるように努めると、一層協力してくれるようになる。こうした好循環に入れるかどうかが勝負。多くの接触が好感を誘引するという心理的現象をザイアンス効果という。60分1本勝負で1回会うより、10分6回会ったほうがいい。

 私が要人面談前に必ずチェックをするのは、出身地と誕生日と出身校。ある時、NEDAのバリサカン長官との面談予定があった。たまたま11月8日で彼の誕生日。それで和菓子を「長官のために持ってきましたよ」とやって。そうすれば向こうもうれしいわけです。日頃あまり笑わない彼が、私には笑顔を見せてくれるようになる。出身地の観光地やら事前に情報を調べておいて、アイスブレーキングでさりげなく触れつつ話を盛り上げる。出身校のスクールカラー話も鉄板。こうやって個人関係を作っていって、インナーサークルに入って、日々閣僚らと携帯テキストメッセージやメールを交換する仲になれば、どんどん仕事が進むようになる。

 ユーモアと愛嬌も重要。いい意味で「人たらし」であるべき。「この人とは会って話したい、一緒に動きたい」と思わせるかが勝負。そのためには「あざとさ」が大事です。私は、あざと系女子のラブコメのテレビ番組とかで、一生懸命勉強しています(笑)。(続く)

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