昨年の入管法改正で創設された「育成就労」の本格開始を27年に控えるなか、国際交流基金は17日、日本での就労を希望する外国人のための実践的な日本語教育のあり方を議論するセミナーを開催した。人手不足を背景に、技能実習の導入、在留資格「特定技能」の創設と拡大などを通じ、日本で就労している外国人は激増。2008年に約48万人だった外国人就労者は、24年には約4・8倍の230万人を超えた。
その中でも比人は国籍別でベトナム、中国(香港・マカオ含む)に次いで多い24万5565人だ。「職場で使える日本語」と「教室で教わる日本語」とのかい離により現場から問題が噴出するなか、各セクターの専門家が望ましい日本語教育のあり方について議論した。
▽各産業の日本語教育参画の必要性
武蔵野大グローバル学部の島田徳子教授は、27年から育成就労が技能実習制度に取って代わり、特定技能とも連続的に運用される予定であることを説明した上で、「現状の課題を踏まえ、新制度移行後では受け入れ団体や機関に対し、外国人への日本語学習の機会を提供することを義務付ける方向で議論されている」と報告。
外国人材受け入れ制度の拡大と並行し、21年にはヨーロッパ言語共通参照枠(CEFR)に準拠した「日本語教育の参照枠」が取りまとめられ、22年にはその手引が作られ、23年には日本語教育機関認定法が制定。24年には国家資格「登録日本語教員」の運用が開始されるなど、日本政府が日本語教育の土台とする枠組みの整備に取り組んでいることを紹介した。
その上で、同参照枠に従ったこれからの日本語教育に重要な点として①言語学習はよりよい人生を歩む手段であり、教室と社会を隔てることがないようにする②学習者の日本語能力は性格や、相手側の歩み寄り、ICTツールの活用などにより常に変わる③目標設定を個別に行うべきであり、母語話者(日本人)にとっての「正しい」日本語を、必ずしも規範や最終ゴールとはしない――ことを上げた。③の例として、従来の教育では、「コーヒーがほしいですか」という文は正しくなく、「コーヒーいかがですか」と直されるが、「職業によってはこうした『正しい』日本語にこだわらないほうが、日本語学習が円滑になる場合も考えられる」と説明した。
また同参照枠には日本語を使って何ができるかを表す「分野別の言語能力記述文(キャン・ドゥー)」という参照枠が設定されており、これについては、「個別の団体・教育機関が自由に作成することが期待されている」と述べ、各産業が現場で求められている日本語力を特定するために日本語教育に参加する必要性を説明した。
▽JLPTの限界にどう対応
民間企業からは株式会社デンソーで同グループ内部の日本語教育と独自基準の策定に取り組み、それを研究論文としても発表してきた森島聡氏が登壇。同氏は、これまで日本語能力の基準とされてきた日本語能力試験(JLPT)では、各レベルの実際の会話能力の間に差があり、実際の外国人人材の日本派遣で問題が生じてきたことを紹介。
同氏は、同社が2018年からCEFRの有用性を認識し、21年の文科省によるCEFR準拠の日本語準拠枠策定に先立ち、2019年にCEFRに準拠した独自目標基準を作成した経験を紹介した。
各レベルの境界があいまいで、説明も抽象的すぎるというCEFRの実務上の問題に対応するため、「本当に学習者の職場でのコミュニケーションの診断に使えるか」を最重要基準として実地調査を繰り返し、4段階のレベルの境界線を設定した事例を説明した。
フィリピン日本語教師会のアドバイザーを務めるアレクサンダー・マカイナグ氏は、JLPTで獲得する「正しい」日本語力と企業が現場で求めている日本語力にギャップがあるなが、日本語学校はJLPT合格に重きを起きすぎ、「生徒をJLPTに合格させられなかったら、教師は低く評価されてしまう」と現状を指摘。「フィリピンで産官学民で問題意識の共有と対話があるのか」と問いかけた。
その上で、①それぞれの目的に合った日本語教育②そうした考え方に従って評価ができる教師・テスターの育成制度――が必要だと説明した。(竹下友章)