2015年には交通事故死者数が1万人を突破し、23年には日本の約5倍近い1万3125人まで増加するなど、日本がかつて経験した「交通戦争」の時代に突入しているフィリピン。所得上昇による自動車・オートバイ市場の発達の影で発生した重大な「社会的費用」の低減を目指し、日系NGOが立ち上がり、日本自動車・オートバイ企業との連携を進めている。
30年以上にわたり施設児童支援などに取り組んでいる日系NGOアクション(横田宗代表)は25日、比自動車市場で最大シェアを誇るトヨタ・フィリピンと、交通安全の総合的な取り組み「タマン・ライドPH」への協力覚書を取り交わした。ヤマハモーター・フィリピン、ホンダ財団およびホンダ・フィリピンに続く3社目。日系自動車企業などとのパートナーシップは、さらに拡大する見込みだ。事業は5月開始予定。
同事業の契機は、昨年2月に国際協力機構(JICA)フィリピン事務所と日本国大使館が日系企業・比政府関係者を招いて開いた、アクション創設30周年を祝うレセプション。これを機に支援の輪が広がった。
アクションの横田代表によると、「タマン・ライドPH」の取り組みは3本柱で構成。1本目は交通安全の啓発活動で、各パートナー企業から作成してもらった動画のほか、手本となる自治体・学校の取り組みや、交通事故被害者遺族の声などを独自に取材し、コンテンツを作成。SNS上で拡散する。
2本目はアプリを使った事故データベースの構築とその利活用。「比では主要道路以外では、多くの事故が示談で解決されるため、公式事故統計は主要道路以外のものを補足していない」(同代表)という課題に対応するため、各ユーザーがそれぞれ事故情報を登録できるようにする。そうして収集したデータを自治体に共有して事故多発エリアでの対処を求めたり、保険会社と提携しアプリの継続利用や安全運転を動機づける仕組みづくりを目指す。
3本目は子ども向け交通安全教育の開発。交通安全センターを経営するホンダと共に交通安全教育プログラムを開発し、指導員を育成、修了証を発行する仕組みを作る。指導員情報はアプリに登録され、各学校やバランガイ(最小行政区)が最寄りの指導員を招へいして、交通安全レクチャーを開催できる体制の確立を目指す。
アクションは1994年設立。2019年には日本団体として初の寄付控除団体に認定。23年に外国団体として初めて少年司法福祉法審議会委員に任命された。同団体が開発した児童施設職員の研修規定は2019年に社会福祉開発省に承認。全国制度化させた実績がある。 (竹下友章)