日本貿易振興機構(ジェトロ)が一般社団法人・国際すし知識認証協会(千葉県千葉市)と提携して実施する3日間にわたるフィリピン人すし職人向けの知識技能セミナーの2日目が6日、タギッグ市ボニファシオグローバルシティにある大学の会場で行われた。同協会理事で世界中ですし職人向けのセミナーを実施している小川洋利氏が、初日の5日にすしなどの日本食の素材の扱い方や調理方法、衛生管理、包丁や砥石の用途などに関する講義を行った後、6日には実際に野菜の切り方やアジの下ろし方、刺身や握り寿司の作り方など実技講習を行った。講習生たちは7日に行われる筆記試験を受けて合格すれば同協会から認定書が発行される。
ジェトロは昨年10月のマニラを皮切りに、今年1月16日にセブ、1月23日にボラカイ島において現地レストランのオーナーやシェフに向けて日本産水産物のプロモーション・イベント「ゴー!ジャパニーズ・シーフード」を開催。これらのイベントに参加したレストランやホテルのシェフたちを中心に、今回すし職人技能セミナーの応募を受け付け、セブから2人、ボラカイ島のシェフ1人も加えた合計19人が参加した。
すし職人の小川洋利氏は初日の座学で世界にすし店が10万軒以上、すし職人が60万人以上いるとされるものの、「その90%以上が生魚を扱う方法を知らずに調理している。だから生魚を食べる人が増えて食中毒が増えているのも現実だ」と語りかけ、適切な衛生管理の重要性を強調した。また、日本で漁師らが行っている鮮魚を新鮮に保つ方法である脳締めや血抜き、神経締めの手法を紹介したほか、五色・五感・五味という日本料理で必要な要素を挙げ、特に日本のうま味成分を体現しただし汁の大切さを強調した。
また、海外と日本のすしの違いを「ソース文化」と「食材を生かす引き算の文化」で対照させたほか、出刃と薄刃、柳刃という主に3種類の包丁の特徴や包丁を研ぐ砥石の重要性など、実物や写真などを使って分かりやすく講義した。
小川シェフは「すし職人向けセミナーをこれまで世界50カ国以上で行ってきたがフィリピンでは初めて」と明かした上で、「直近ではバンコクで同様のセミナーを実施し、最終日に認定に向けた試験を行った結果、33人の参加者のうち合格者は4人だけだった」と言うと参加者たちは顔を引き締めて講義の内容を一心にノートに写したり、スマホで録画するなどしていた。
2日目の実技講習では小川シェフが実際に受講生たちに実物の材料や包丁を使った笹切りや大根の桂剥ぎの方法を伝授したほか、あじの三枚おろしの方法、巻寿司やにぎり寿司の作り方などを指南した。特にアジの刺身を作る時には皮の剥ぎ方に注意することや、アニサキスによる食中毒を防止するため寄生虫の有無の確認や細かく包丁を入れることなども伝えた。
小川シェフは「フィリピンの職人たちもみな技能を持っているが、やはり適切な処置の仕方を事前に教えてもらうことが大切。そうすればもっと日本の魚を美味しく食べることができるはず」と参加者らに伝えていた。
初日の講義で参加者らに挨拶したジェトロの中澤克典理事はまにら新聞に対し「日本へのフィリピン人観光客が急増しており、フィリピンは日本の水産物市場としてもとても重要な国。安心して日本の水産物などを食べてもらうためにも、すし職人の皆さんに日本の衛生管理の基準を知ってもらうことが極めて重要だと思う」とセミナーの意義を強調した。(澤田公伸)