首都圏マニラ市マラテ地区で18日に発生した19歳日本人留学生を標的とした拳銃強盗事件の容疑者2人が22日に逮捕されたことが、まにら新聞の取材で分かった。同容疑者2人は昨年12月29日に同地区で発生した、69歳の邦人男性に発砲しかばんを奪った事件と同一犯。首都圏警察マニラ市本部第5分署のコルテス分署長が明らかにした。
逮捕されたのは、反社会的団体「スプートニク」構成員ジェームズカール・デアシス容疑者(23)=マニラ市トンド=と、同「コマンド」構成員ジョンイスラエル・テオドロ容疑者(24)=マニラ市サンタクスルス。2人はマニラ市エルミタ地区で48歳の比人女性を標的に同様の手口で新たに強盗を働いた後、逃走経路を抑えていた警察に逮捕された。取り調べで同容疑者2人は、邦人を標的とした2件の強盗のほか、首都圏ケソン市のパン店への強盗も供述した。
容疑者2人からは実弾が2発入った38口径リボルバー拳銃1丁、3発の実弾が入った38口径オートマチック拳銃1丁、一連の犯行に使われた黒のオートバイ、バイクタクシードライバーを装うための衣服が押収された。また、容疑者は運転免許を持っていなかった。
容疑者は強盗罪のほか違法銃器所持の容疑で捜査を受けているが、邦人被害者2人はまだ被害届を提出していないという。捜査を担当した第5分署レメディオス派出所のフガン所長によると、12月の発砲事件の被害者は比人パートナーを代理人として被害届を出す予定という。
▽貧困と治安悪化
まにら新聞は24日夜10時ごろ、第5分署長の許可を得て、同署に留置されている容疑者2人に面会した。手錠でつながれ現れた2人は、痩せた一般の青年という風貌。「被害者の同胞が会いに来たが、何か言いたいことはないか」との分署長の質問に、2人は「パッセンシャ・ナ(すみません)」と謝罪の言葉を繰り返した。「バイクタクシーを装って強盗を働くという手口をどのように覚えたか」との記者の質問には、「子どものころにストリートでオートバイの運転を覚えた。犯行の手口もストリートで蓄積されてきたものを学習した」と述べた。
同分署長によると、2人は貧しい家庭に生まれ、教育も十分に受けておらず、合法的な職業に就いていない。子どものころから窃盗などを繰り返していた。反社グループには、以前の犯罪で収監されたときに別の収監者からリクルートされて入ったという。
「同じ手口の犯罪が組織的に行われている可能性はないか」との質問に、同分署長は「可能性としては考えているが、そうした証拠はまだつかめていない」とした。
▽地区を挙げた取り組み
24日午後7時すぎ、マラテ地区のバー・飲食店同業者協会「MACRO」、同地区のバランガイ(最小行政区)、同地区を管轄する第5分署による定例会合が開かれた。MACROは各店舗のスタッフやガイドから募ったボランティアに無線を支給し、周辺を周回する2人乗りのオートバイなど疑わしい特徴のある人物を目撃した際に、バランガイ・警察に随時情報を共有する。連絡を受けたバランガイ・警察は監視カメラを通じた人物の監視や巡回の強化を行うなど、連携して地区の治安維持に当たっている。今回の会合では最新の事件の詳細が共有された。
邦人強盗犯の逮捕を報告したコルテス分署長は、「最近の強盗多発を受け、首都圏警察、マニラ市本部、第5分署は人員を増派し、犯罪捜査だけでなく犯罪の予防にも総力を挙げている」と説明。レメディオス派出所のフガン所長は「今回の逮捕は、これまでバランガイの監視カメラ映像の追跡検証、情報提供者からの情報収集、他の警察署との連携など、あらゆる方法で捜査を続けてきた成果だ」とし、犯人の1人は首都圏マラボン市まで追跡して逮捕したことを明らかにした。
長年、地域の治安向上や警察活動に協力してきたマクロのランゴメス会長は「事件が発生したという情報はすぐ広がるが、しっかり捜査が実施され犯人が逮捕されたという情報は広がりにくい。マラテ地区が治安維持、犯罪捜査協力体制を整えているということも知ってほしい」と強調した。
「他市で事件が発生しても、『マラテは危険だ』という風評が立ってしまう」というランゴメス会長。昨年10月から首都圏で続発する邦人を標的とした拳銃強盗事件は11件に上るが、マラテ地区で発生したはそのうち2件のみ。 (竹下友章)