上院は10日夜、急きょ弾劾裁判所を開廷した。弾劾裁判所の裁判長に就任したエスクデロ上院議長は11日、下院に対し、弾劾訴状の提出に関し「1年に1度ルール」をはじめとする憲法の弾劾開始要件を満たしていることの証明を提出するよう命じた。それとともに、来月28日に招集される次期第20回下院に対し、サラ氏の弾劾について現第19回下院の動きを承認し、弾劾訴追を継続する意思決定を表す決議を出すことを命じた。
昨年末、市民団体らは下院に3件の弾劾訴状を提出し、それを統合した案を下院議員らが2月に提出し、採択している。一方、下院を弾劾訴追手続きを開始できる唯一の機関と定める憲法11条は、同一公職者に対する弾劾手続きの開始を1年に1度だけと定める。合憲性の確認を理由に差し戻し、再度手続きが延期された格好。弾劾裁判の本格審理は7月以降の次期国会に持ち越されることが確実となった。
またエスクデロ裁判長は11日付で、サラ副大統領に対し10日以内に弾劾条項への回答書を提出し、「弾劾裁判長が指定する日時」に上院への召喚に応じることを求める命令を出した。副大統領室は同日午前に召喚状を受領したことを確認した。
▽あわや殴り合いか
ドゥテルテ政権下で警察長官を務めたロランド・デラロサ上院議員は10日、弾劾訴追の却下を求める動議を提出し、それを巡って上院は紛糾。休憩時間に、ドゥテルテ氏が名誉総裁を務めるPDPラバン総裁のパディリャ議員が、動議に反対するビリャヌエバ議員に詰め寄りデラロサ氏に引き離される様子が放送され、「あわや殴り合いに」と注目を集めた。長時間の休憩が開けると、予定を1日早めて急きょ弾劾裁判の招集がかけられ、上院議員は判事のローブをまとい就任を宣誓。弾劾裁判所として、カエタノ上院議員が修正した案に基づき、訴追の差し戻しに関する決議が採択された。翌日付で弾劾裁判所名で出された命令には、「訴追を却下、また打ち切ることなく」という文言が盛り込まれた。
また、エスクデロ氏は上院議長として10日付で、ロムアルデス下院議長に対し書簡を送付。弾劾訴状が同日招集された弾劾裁判所に付託され、サラ氏への召喚状の発付に伴い意味を失ったとして、11日に予定されていた下院検察役による弾劾条項の提示を中止すると通知した。
▽噴出する疑問
弾劾裁判の検察役に選出され、次期国会への再選も果たしているルイストロ下院議員は11日、会見で、下院の弾劾検察が弾劾裁判所からの命令の「正式な受領を延期する」ことを宣言した。同議員は「命令を拒絶するわけではない」と断りながら、「憲法要件順守に関する一つ目の命令について、われわれは憲法の要件を完全に満たしているという主張を維持する」とし、「同命令が不明瞭だと思われるため、弾劾裁判所に説明を求める」とした。
下院差し戻し命令案に反対票を投じたリサ・ホンティベロス上院議員は同日、記者団に対し「弾劾裁判所が提起された訴追を差し戻す権利は憲法に規定されていない。差し戻しは事実上の却下だ」と主張。「差し戻しはドゥテルテ陣営の計画としてあったようだ」と語った。
また、現行憲法の起草者の1人クリスチャン・モンソッド元中央選挙管理委員長は「弾劾裁判所に訴追の合憲性に疑義を唱える権限はない」と指摘するなど、各所から疑問が噴出した。エスクデロ氏は「誰でも見解を表明できるが、合憲性の判断は最高裁のみができる。ただ、弾劾に関して上院と下院は裁判官と検察官の関係であるため、下院はわれわれの命令を拒否できない」と釘を差した。(竹下友章)