昨年12月の比上院承認に次ぎ、日本の国会が6日に訪問部隊の法的地位を定める比日部隊間協力円滑化協定(RAA)を承認し、両国が締結のための国内手続きが完了したことを受け、アニョ国家安全保障担当大統領顧問は7日、「比米防衛関係を決定づける瞬間だ」との声明を出した。比国軍のブラウナー参謀総長も「2国間の防衛協力と地域の安定の推進のための重要なステップだ」として歓迎の声明を発表した。一方で、フィリピンにおける「元従軍慰安婦」の女性を支援する団体リラ・ピリピーナは、在日比人団体や国際人権団体の日本支部と連名で、「RAAは地域の緊張を高め、日本の平和も脅かす」などとして強く非難した。
豪州、英国と締結されているRAAは、訪問部隊の入国手続きの省略だけでなく、公務中の隊員死亡・負傷に関する相互請求権の放棄など訪問部隊の法的地位に関する問題を規定するほか、基地などへの訪問部隊のアクセスを可能とするなど、訪問軍地位協定(VFA)と同様の国際条約。石破茂首相が4月末の訪比時にフィリピンを「同盟に近いパートナー」と呼んだが、そうした「準同盟」関係の基盤となるのが同協定だ。比日両国の国内手続きが終了したため、その旨を相互通知した後に協定の定める日数を経て発効する。
アニョ氏はRAAについて「さらなる共同活動・訓練や人道支援を可能にするだけでなく、地域の安全保障環境がより変化しやすくなっている中で、両国に共に行動に出る手段を与える」とし「日本が比をアジアで初のRAA相手国に選んだことは、両国の深い信頼を物語っている。RAAは実践的な枠組みというだけでなく、戦略上のシグナルでもある」と強調した。
ブラウナー氏はRAAを「2国間の防衛協力と地域の安定を推進するために重要なステップだ」とし、両国間の共同訓練、人道支援、災害救援のほか、「伝統的、および新たな危機に対応するための相互運用性と連携の向上の基礎となる」と強調。また、陸軍総司令官時代から親交のある吉田圭秀統合幕僚長に対しては、「締結に向けた確固たるリーダーシップに個人的に深く感謝すると表明した。
▽十分に公論なされたか
一方、リラ・ピリピーナは、比系国際人権団体「フィリピン人権連盟(ICHRP)」の日本支部、比人移民支援団体「ミグランテ」日本支部、日本左派系団体「アジア共同行動・日本連絡会議」、左派系市民団体「バヤン」日本支部と連盟で出した声明文で、RAAを「両国の国民の利益でなく、帝国主義勢力の地政学的野心のみへの助けとなる危険な軍事協定だ」と批判。「両国の部隊が、軍事演習や作戦行動のためにお互いの領土に入ることを可能とするものであって、平和と安定の推進とはほど遠い。この協定はインド太平洋地域での緊張を高め、比日を米国とその同盟国の戦争志向のアジェンダに引き込む」と主張した。
その上で、「比人移民として、祖国が再び外国勢力の軍事行動の場に利用されないか深く懸念する。われわれは戦争と強制退去の恐ろしさを嫌と言うほど知っている。貧困、失業、弾圧だらけの国から逃げ出したが、植民地主義的政策と軍事化の数十年によって状況は悪化している」と訴え、日本人に対しては「この協定はフィリピン人コミュニティー、市民社会、平和運動の声を無視し、内容のある公の議論を経ずに承認された。この協定は日本の平和憲法と戦争の記憶を持つ人たちによって大切にされてきた平和を脅かすだろう」と警告した。(竹下友章)