テオドロ国防相は24日、フィリピンを訪問中の中谷元防衛相と首都圏マカティ市のホテルで会談した。石破政権で防衛相が比を訪問するのは今回が初めて。会談後の記者会見で中谷氏は、2国間・多国間での共同訓練など部隊間交流が進展し、防衛用レーダーの移転・供与に関する協力が進んでいることを踏まえ、部隊の運用担当者間および防衛装備当局間という二部門でのハイレベル戦略対話を新たに立ち上げることで合意したことを発表した。また、運用担当者のハイレベル対話では「深い情報共有・高度な運用面での連携に向けて、具体的に議論を進めることで一致した」とした上で、「軍事情報保護のあり方について防衛当局間で議論を開始することで一致した」と明らかにした。比日間の軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の交渉入りを念頭にしたものとみられる。GSOMIAは比にとって、70年以上前からの同盟国である米国との間でも昨年になってようやく締結できたばかりの協定だ。
一方、テオドロ国防相は会見で、「比日部隊間協力円滑化協定(RAA)の実施に全速力のスタートダッシュを切るため、われわれは今年中に日本の国会がRAAを承認することを期待している」と表明。両相はともに、比日防衛関係を「新たな高みへ引き上げたい」と強調した。RAAが締結され、その上に比日GSOMIAも加われば、比日の安保関係は日豪関係のような「準同盟」に大きく近づく。
また中谷氏は、23日にパンパンガ州バサ空軍基地のほか、日本の防空管制レーダーが設置されたラウニオン州のウォルス空軍基地を視察したことを報告、それを踏まえ、「南シナ海を含む地域においてフィリピンが果たしている大きな役割を実感した。特に日本製のレーダーがフィリピンの空の守りのため、そして南シナ海の平和・安定のために大きな貢献をしていることを間近で見た」と述べた。
日本のレーダーを巡っては、2014年に旧来の武器輸出三原則に代わる防衛装備移転三原則が策定されて以降、初の国産完成品の海外移転(輸出)例となった警戒管制レーダー4基(三菱電機製)の契約が2020年に三菱電機と比国防省の間で締結。初号機は23年12月にウォルス基地で比空軍に正式に引き渡され、2号機となる移動式レーダーは昨年4月に引き渡された。比空軍によると、昨年1月には固定式の3号機が納入されており、今年3月に最終点検および引き渡しが予定されている。また23年に始まった政府安全保障能力強化支援(OSA)で比は最初の対象国に選ばれ、比海軍への沿岸監視レーダー5基の無償供与が決定。24年には比が唯一、2年連続で対象国に再度選ばれ、同レーダーの追加供与が決定している。
日本から移転・供与したレーダーの運用に関する関与の強化を進めながら、探知した情報を共有して共通の脅威に対応する体制を構築するのが狙いとみられる。
また中谷氏はもう一つの合意事項として、両国の架け橋となる人材育成のための防衛大への比人留学生受け入れや、ハイレベル交流を含めた重層的な人的交流を推進することでも一致したことを明らかにした。
▽防衛産業育成で連携へ
テオドロ国防相は会見で「2国間安保協力の深化だけでなく、持続可能な経済的利益をもたらすような防衛産業のパートナーシップ促進も重要だ」と強調。中谷氏は「防衛装備・技術協力を双方の利益となる形で協力を進めていく」とした。
比では昨年10月に国内防衛産業の育成を目指す自衛態勢再活性化法が制定され、国策として「軍需産業」の育成に取り組む。それに先立ち22年には「武器製造、修理、貯蔵業」を外資のネガティブリストから除外した。一方日本では、22年の安保3文書を策定し、防衛費を27年度から従来の2倍となる国内総生産(GDP)比2%にすると決定。装備品の移転の「枠」となる防衛装備移転三原則は23年末に約10年ぶりに改定され、それに伴う運用指針の更新により、「警戒」「監視」などの5類型に当てはまる場合、殺傷能力のある装備品の海外への移転・供与の道が開かれた。
昨年11月に第11回拡大ASEAN国防相会議(ADMMプラス)に合わせてラオスで開かれた比日防衛相会談では、テオドロ氏は中谷氏に「防衛装備品の共同生産や技術移転」を要請した。比では21年に比海軍がイスラエルの造船企業と交わしたミサイル高速艇9隻の調達契約で、一部を比国内で製造する内容が盛り込まれた前例もあり、新たに立ち上がった防衛装備ハイレベル対話の中では、日本防衛装備品の比国内製造の道も模索されそうだ。
▽中国への「抵抗」
テオドロ氏は会談冒頭、「中国やその他の国による、国際秩序を変更しようとする一方的な試みや言説に対し、強靭(きょうじん)な両国となるための議論をしたい」と呼びかけた。会談後の会見では「われわれは、合意なく一方的に世界秩序や国際法を力によって再編しようとするいかなる試みにも『抵抗する』という大義を共有した」と強調した。
(竹下友章)