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放水銃発射で補給妨害 実効支配強奪へカウントダウン アユギン礁で中国海警局

2023/8/7 政治
PCG巡視船に放水銃を発射する海警局船=5日、南シナ海パラワン州カラヤアン町アユギン礁(PCG提供)

海警局がアユギン礁への補給任務に向かうボートに放水銃を発射。PCGは同礁の比海軍詰め所への補給を断念

 比国軍と比沿岸警備隊は6日、南シナ海南沙諸島のアユギン礁(英名セカンドトーマス礁)付近で比海軍が詰め所としている海軍座礁船(BRPシエラマドレ)への補給任務に向かっていた比巡視船、および補給ボートに中国海警局が放水銃を発射し、任務を妨害したと発表した。

 これまで海警局は、PCGの巡視船は妨害しても補給ボートの業務は「人道的措置」として監視のもと許容してきた。しかし今回妨害が補給ボートまで及び、実力の行使が1段回エスカレートした格好だ。このまま十分な補給ができなければ、座礁船に配置された職員は「兵糧攻め」を受ける形となり、実効支配を完全に奪われるまでのカウントダウンが始まるとみられる。

 アユギン礁は2016年の南シナ海仲裁裁判所の判断によって、比の排他的経済水域(EEZ)および大陸棚内にあり、比が主権的権利と管轄権を有することが確認されている。

 PCGによると、妨害事案は5日午前9時ごろ発生。国軍は声明で「海警局の危険操船により、2船目の補給ボートは補給業務を遂行できなかった」と報告した。海軍が先住民族からチャーターしている木製の補給ボートは、座礁船配置職員に供給する予定の食料、水、燃料などを載せていた。国軍は、共産党中央軍事委員会に対し、「思慮のある行動と、『誤算や事故』を避けるための行動を取るよう」求めた。共産党中央軍事委員会は中国の軍事最高機関で、人民解放軍だけでなく海警局や準軍事組織である中国民兵も傘下に収める。

 一方、PCGは海警局に対し、「比がEEZ内に有する主権的権利を尊重し、航行の自由の妨害を自制し、この『不法行為』に関わった人物に対し適切な処分を下すよう」要求。今回の妨害行為が上層部の指示でなく、現場判断で行われた可能性を踏まえた抗議声明を出した。

 米スタンフォード大ゴルディアンノットセンターのレイモンド・パウエル氏(元米空軍大佐)は船舶位置識別装置(AIS)情報の分析結果として、4日にも補給業務のためアユギン礁に接近したPCG巡視船と補給ボートに対し、少なくとも4隻の海警局船と32隻の民兵船が派遣され、進路を妨害したと報告している。

 米国務省は6日(比時間)に公式サイトに抗議声明を掲載。「海警局船と中国民兵船はPCGの合法的な航行の自由の行使を妨害し、比船と乗組員を危険にさらした」とし、この行動は「国際法に反するとともに、南シナ海の現状に対する脅威であり、直接的に地域の平和と安定を脅かす」と非難し、「比政府の立場を支持する」と明言した。その上で「PCG船を含む比公船への武力攻撃は比米相互防衛協定の発動条件となる」との解釈を改めて提示し、中国に警告した。

 越川和彦駐比日本国大使もX(旧ツイッター)で、「海洋での合法的行為を脅かし、航行を危険にさらすいかなる嫌がらせや行動もまったく容認できない」とし、比の立場に「強い支持」を表明した。

 海警局は今年2月6日には、アユギン礁で補給業務のサポートにあたるPCG巡視船と職員に向け、機関銃のふたを外すとともに火器管制レーダーを照射。6月30日には、約10隻の巡視船、民兵船からなる艦船で環礁であるアユギン礁の入り口をふさぐ形でPCG巡視船の進路を妨げており、同礁における比の実効支配は揺らいでいる。こうした比のEEZ内での一連の行動には、民兵船だけでなく中国海軍艦の参加も確認されており、中国は明確な「武力行使」に当たらないぎりぎりの範囲で、威圧と実力の行使による実効支配の既成事実化を進めている。(竹下友章)

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