アジア開発銀行(ADB)の神田眞人総裁は15日、ADB本部(首都圏マンダルーヨン市)でフィリピン外国人特派員協会(FOCAP)のための会見を開き、米トランプ政権の「相互関税」政策で不透明性が高まる中、外部リスクに対応するために国内経済を強化する必要性を指摘した。
トランプ氏が今月2日に打ち出した「相互関税」の影響を巡っては、国家経済開発庁(NEDA)は「2年で0・1%程度」と推計する一方、比中銀のレモロナ総裁は、今年の成長率が政府目標(6~8%)を下回り、コロナ禍後最低となる5・2%と予想するなど、政府・中銀の間でも悲観と楽観が交錯する。ADBが9日に発表した最新のレポートでは、2025年の比の成長率は6・0%と推計されたが、同レポートは「今回の予測値は現米政権の相互関税が発表される前に計算されたものであり、相互関税の実施や不確実性の拡大は各国の成長率を押し下げる可能性がある」と説明している。
「トランプ関税が比の経済成長にどれくらい影響を与えると思うか」との質問に神田総裁は、「(トランプ政権の)正確な政策やその影響は誰も分からない。毎日新しい政策が発表され、予想困難となっている。どの国のどの製品にどれくらい関税が課されるかはなお明確でなく、毎日、大きな想定に基づき再計算する必要がある」と述べ、ADBも大きな予見不可能性に直面していることを説明。「不確実性それ自体が、為替・株式などの変動に既に影響を及ぼしている」とし、比への投資も「世界的な不確実性の高まりの中でリスクにさらされている」と指摘した。
フィリピンに関しては「内需が強い一方、輸出に関して米国依存度が比較的高く、その一方で(米国による)相互関税率は相対的に低い」と説明。比政府への提言として、海外直接投資を誘致する環境整備などの制度改革の継続、鉄道事業など大規模インフラ政策の推進を挙げ、さらに「世界の激しい競争を戦うための技術革新も極めて重要だ」と強調した。
また、「現政権が目指す『持続可能で包摂的な成長』はまさに適切だ」と指摘。「こうした(貧困層の引き上げを目指す)方針は、単に最貧困層のためだけでなく、国内の消費基盤を強化するという意味でも効果的だ」とし、経済政策上の有効性を評価した。
NEDAのバリサカン長官らが主張する、東南アジア諸国連合(ASEAN)各国と連携を深めて共同歩調で米国との交渉に当たるという方針については、「外交交渉に関してはコメントする立場にない」としながら、「地域の接続性(コネクティビティー)を高める事業は、地域経済の効率性を高めるだけでなく、地域の政治的な連帯を高め、長期的な平和につながる」との見解を示した。(竹下友章)