首都圏マカティ市RCBCプラザで20日、国際交流基金マニラ日本文化センターによる日比合作のライブ・ナレーション舞台「戦物語(いくさものがたり)」の初日講演が行われた。今年外務大臣表彰受賞者に選ばれた箏奏者で文学博士の永井博子さん(アテネオ大)、世界で活躍する筑前琵琶の語り部で女優の横田桂子さん、国内最高の文学賞であるパランカ賞を10回受賞しているフィリピン屈指の劇作家・俳優のロディー・ベラさんによる国境とジャンルを超えた異色のコラボ。平安時代末期の壇ノ浦と現代のガザを古典日本語・現代日本語、英語で語り、琵琶と琴で演出し、悲しみ、希望、無常といった人類普遍のテーマに取り組む。日本の古典芸能に根ざした独創作を、約200人の観客が鑑賞。モウニル・アナスタス駐比パレスチナ大使も来場した。
壇ノ浦の戦いから始まる舞台は、23年10月のパレスチナ自治区ガザのイスラム組織ハマスによるイスラエル奇襲に始まる紛争に場面を移し、兄をハマスに拉致されたイスラエルの少年アッシャー、報復の空爆で土地を追われるガザの少女アマル、そして民間人負傷者が次々送り込まれるガザの病院で奮闘する医師という3者の視点から描き出される。終わらない報復の連鎖の中で、大切な人を奪われていく人々の怒りと苦しみに迫り、観客に「この狂気はいつ終わるのか」と問いかける。
背後のスクリーンに日英両言語で台詞を映しながら、横田さん、永井さん、ベラさん、劇団員のアービンさんの4人が語りと音楽を紡ぐ独自の形式。全員座りながらの舞台だが、表情と声色、そして楽器を弾く際の全身の動きに感情を乗せるパフォーマンスは圧巻の迫力を生み出し、200人の観衆を飲み込んだ。講演後は全員がスタンディングオベーションで長時間の拍手を送った。
▽パレスチナ大使も称賛
今回の舞台にはモウニル・アナスタス駐比パレスチナ大使も来場。同大使は感想についてまにら新聞に対し、「私の感想は、『エクセレント(素晴らしい)』、『エクストラオーディナル(並外れている)』という二つの言葉だ」と笑顔で称賛。「楽器、語り、感動的で芸術的だった。パレスチナ人として深く共感した」と述べた。
▽アーティストの社会的責任
公演後、写真撮影を求める観客の列に対応した横田さんは、まにら新聞に「平家物語を語るときも、軍記を伝えるのではなくて、一人ひとりが懸命に生きていたということを伝えたいと思っていた。そこが、ガザの物語と共通するところ」と説明。「普通、こういうアクチュアル(現実的)な主題はなかなかされないけれど、私にとってはこれ(琵琶芸能)は道具。ただ古典の良さを味わうだけではなく、現代的に重要なメッセージを伝えるためにも生かせる」と語った。
永井さんは、「古典芸能を新たなかたちで作り出すことがテーマだった」と述べ、「ガザやウクライナ、他の社会問題など、『今これを考えていかなくてはならない』というところを押さえるということは、アーティストの社会的責任だと思っている」と語った。
同公演は23日にダバオ市アネテオ大フィスター講堂(午前10時)、25日にカガヤンデオロ市ザビエル大リトルシアター(午前10時半)でも開催される。入場は無料。(竹下友章)