EUとの貿易関係に影 人権問題をクリアに
欧州連合が3月末、フィリピンが発行した船員資格証明書の承認を受け、政府関係者や地元海運関係者らは安堵のため息をついた
欧州連合(EU)が3月末、フィリピンが発行した船員資格証明書を引き続き承認したことを受け、政府関係者や地元海運関係者らは安堵のため息をついた。国際要件を満たすための訓練や認証の基準を引き上げる比の「真剣な努力」が評価されたようだ。
もしこの認証が取り消されれば、比人船員はEUを構成する27カ国の籍船への就業ができず、現在欧州航路に乗り組む約5万人が失職する可能性があった。
比政府はEUが懸念する現地の海事教育の質の改善に積極的に取り組む一方、外交関係の根幹をなす基本的人権の原則を支持する熱意は見られない。
EUとの貿易などに関する協定の全てに人権の条項が盛り込まれ、比のこうした姿勢は2014年以来享受してきた最大の特権のひとつである一般特恵関税制度(GSP+)を失う危険に晒されている。
GSP+は果物から自動車部品まで輸出製品6270品目を無関税でEU市場に参入させ、他国製品との競争力を高める。おかげで、比製品の安定した需要が確保され、雇用拡大や経済活動を活性化させている。
イーモン・ギルモアEU人権担当特別代表は比が引き続きGSP+の適用を受けるには「人権基準についてより高い基準を満たし、より厳しい審査を通過しなければならない」と述べた。ギルモア氏は「それができなければ、年末にもこの優遇制度を失う可能性がある」と警告。
前政権が執行した麻薬戦争に対し説明責任を果たす公式的な行動がないことも、EUのみならず、国連人権理事会から懸念されている。ギルモア氏は麻薬戦争における死者数のほか、これまで3件しか有罪判決が立証されていないことについて「非常に憂慮すべき点。どのような基準でみても、不十分」と付け加えた。
貿易産業省によると、GSP+適用下での21年の輸出額は20億3000万ユーロ、GSP+の輸出総額にしめる割合は26%に上った。欧州議会は昨年2月、比の悲惨な人権状況に対処する「実質的な改善と意思」が示されない限り、GSP+を一時的に撤回する決議にも至った。
比経済はパンデミックからの復活は道半ばであり、物価高騰など多くの問題を抱えるなか、EUとの貿易におけるリスクを冒すことはもう許されない。(8日・インクワイアラー)