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12月19日のまにら新聞から

「キャロットマン」活躍の裏で 比の農業衰退に警鐘を

[ 651字|2021.12.19|文化 スポーツ (culture)|新聞論調 ]

 マンハッタン短編映画祭2021で、比人俳優のジェイリック・シグマトンが初出演映画『Dayas』で主演男優賞を受賞した。シグマトンは2016年、畑でニンジンが入ったかごを運ぶ姿を激写され、その類まれに整った容姿から「キャロットマン」としてネットで一躍有名となり、モデル・俳優としてのキャリアを積んでいる。

 無名の農民が芸能界のトップに立ち、富と名声を手に入れるという彼の物語は、一見おとぎ話のようだ。しかし、フィリピンで農業に従事し続けることは、苦難に満ちた人生を送ることになるという厳しい現実を白日の下にさらすことにもなった。シグマトンの活躍は同時に(彼自身はまだニンジンを栽培しているらしい)、衰退の一途をたどる比の農業のあり方に警鐘を鳴らすものでもあるべきだ。

 農家にはお金を十分に稼ぐ機会はないと考えている人が少なからず存在することに驚く。さらに、残念ながら貧困に苦しみ、自分の子どもには都会で仕事を探すよう勧める農家が多くいることも事実だ。農業の繁栄は、国が国民を養うだけの十分な食料を確保することに直結し、農業の衰退は国全体の食の安全保障を脅かす。農家もみな人間であり、少なくとも1人1人が自分らしく生きるための十分な経済的保障が必要なのだ。

 農業を離れることが「成功」の第一歩という構図ではなく、農業従事を選択した人にもチャンスがあることを保障できるようにする必要がある。そうでなければ、比の農業はゆっくりと死んでいくだろう。(10日・マニラブレティン、イベッテ・タン、作家)

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