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9月25日のまにら新聞から

忘却に抗する戦い 戒厳令記念日に若者は思う

[ 738字|2020.9.25|社会 (society)|新聞論調 ]

 今日9月21日はマルコス大統領が戒厳令を布告してから48回目の記念日。「若者はマルコス時代と戒厳令について語るが、体験していないので、本当のところは彼らに分かるはずがない」とのツイートをめぐって、最近ソーシャルメディアで議論が巻き起こった。

 私が生まれたのは独裁者が打倒された12年後の1998年だが、育ててくれた人々を通して、マルコス政治の残虐行為を単なる概念ではなく、現実として知るようになった。ところが、このツイートは、自分が生きていない時代の出来事を非難する権利は若者にはないと言っているかのようである。

 偽情報が拡散し、政治が分裂する環境は、国民の記憶の弱体化を図るマルコス支持者には格好のものだ。今月初め、マルコス元大統領の誕生日である9月11日を北イロコス州の特別休日にする法案が下院で可決された。

 「過去を忘れ、前進しよう」と言う人がいるが、そうはできない。マルコス家は不正蓄財した富を返さないばかりか、今も権力をふるい、自分たちの都合のいいように歴史をわい曲しようとしているからだ。マルコス独裁政治は今日、ドゥテルテ政権とその手口の中に生きている。両者はともに、報道の自由を攻撃しABS—CBNの放送をやめさせ、軍・警察とつるんで超法規的処刑と人権侵害をしたうえ、寡頭政治打破に取り組んでいるかのように見せかけるのだ。マルコス時代の免責と圧政の政治風土が、現在によみがえっている。

 今こそ、フィリピン人、特に若い世代が、自分たちの集団としての記憶を呼び起こし、マルコス家を復権させようとする人々に抵抗すべき時だ。ミラン・クンデラが書いたように「権力に抗する戦いは、忘却に抗する記憶の戦い」なのだ。(20日、ビジネスワールド、ピア・ロドリゴ)

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