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10月18日のまにら新聞から

比の勝者と敗者 持たざる者が生きづらい国

[ 756字|2019.10.18|社会 (society)|新聞論調 ]

 社会の敗者は誰か。フィリピンではこれほど簡単な問いはあるまい。労働者だ。

 労働者は生活できないほどの低賃金に苦しむが、議会は無策だ。労働者は団結して真っ当な賃金と利益のために交渉する権利を有するが、労働組合運動への風当たりは強い。労働人口の6%程度しか組織されておらず、ストライキもできない。組織化を後押しするはずの労働雇用省は資本家の手先と化している。

 さらに労働者はひどい通勤に耐えなければならない。周辺の州から首都圏へのバス乗り入れを禁じる提案もあり、労働者が職場に直接通うことさえできなくなる可能性もある。

 次なる敗者は小規模農家だ。もみ米の出荷価格は1キロあたり8〜10ペソで、生産コストを下回る。出荷価格は数カ月前のコメ自由化法施行直後から下がり始め、耕作が継続不可能になるほどまでになった。300万人以上のコメ農家は1キロ19ペソで政府がコメを買い取るのを切望している。さもなければ、骨折り仕事をしても損失がかさむばかりだ。農家の絶望は自殺を考えるほどに深い。

 小規模養豚農家も、アフリカ豚コレラの影響による値下がりと需要減の影響を受けている。1頭売るごとに1千ペソの損失になるという。政府はこうした小規模農家を口先で慰めているだけだ。

 一方、一番の勝者は超富裕層である。約50の一族が、国富の30%以上を支配し、1%の者が所得の60%を吸い上げている。比は超格差社会で政府の政策もこれを助長している。二番目の勝者は「収奪国家」だ。支配者層は、マルコス家が比の富を収奪した証拠はないなどと言っているが、これは今世紀最大のデマだろう。第三の勝者は政治システムにはびこる王朝政治だ。比は持てる者には天国、持たざる者には地獄の国だ。(16日・マニラタイムズ、マーレン・ロンキーリョ)

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