今こそ政治より経済
ニュースの優先順位
比大生は学籍番号を死ぬまで忘れないというが、私は忘れていた。卒業30年後に「メディアとビジネス」というフォーラムが開かれた時のことである。講師の1人として同校を訪ねると、窓口で何と学籍番号を尋ねられた。一瞬、死に直面した思いだったが、なんとか番号を思い出した。
このフォーラムは番号だけでなく、「開発ジャーナリズム」という言葉を初めて耳にした当時も思い出させた。これは農業、行政学、地域開発、コミュニケーション研究に関係する研究分野だ。
農業は経済の上に成り立っているが、農業に携わる人口の大多数は貧困で相対的に無教養なため、情報と知識を早急に普及させるための「開発ジャーナリズム」はそういう人達に対して貢献できる可能性があった。
30年を経て、そもそも比のメディアは欧米の失敗を今でも踏襲しているように思えてならない。メディアは、広告費などと引き換えに勢力拡大をもくろむ政治家に迎合している。今のニュースがどうなっているのか、何がニュースなのかを決定するモデルとして、ジャーナリズムは存在したのではなかったか。
今こそメディアは、何に優先順位をおくべきか再考すべきだ。時間とスペースを費やす必要があるのは、政治家の発言にではなく、「もうけにならない話」に対してだ。
私は母校の学生たちに、これからのメディアは政治ではなく、ビジネスに焦点を当てるべきだ、と話した。多くの比人が貧乏なのは、家庭でも学校でも、どうしたら富を築けるか教えてもらったことがないためでもある。メディアは、ビジネスの仕組みが分かるようなニュースを提供しなければならない。(8月31日・スター、シト・ベルトラン氏)