民主主義の伝統を逸脱
施政方針演説
アロヨ大統領による9回目の施政方針演説は自画自賛、野党非難に終始し、これまでの同演説と変わった内容は一切なかった。しかし、最後に歴代政権が築いた道を踏み外した。単なる別れの言葉でなく、最後の施政方針演説を次期政権への引き継ぎ期間の始まりと位置づけたアキノ元大統領が築いた伝統から逸脱したのだ。
アキノ、ラモス両元大統領は、最後の施政方針演説で次期大統領が誰になろうと地位を明け渡すと明言したが、アロヨ大統領は、この民主的伝統を引き継がず、2010年6月30日に主権を手放すかどうかという疑問をわれわれに残した。
主権移譲への明言を避ける行為は、彼女の権力への非民主的な執着を示している。大統領は自身を政治家ではなく、為政者と称しているが、彼女の大統領特権への執着ぶりは政治家そのものと言える。彼女は政治家として選挙運動モードに入り、政権にしがみつこうという意図をあらわにし、後継者と競おうという姿勢を見せている。
退陣の時期や方法などへの明確な意図を見せないアロヨ大統領の姿勢は、政治論争を巻き起こすだろう。彼女は国民の信用を得ていないことを承知しているため、政界からの退陣意思を信じてくれとは言えないだろう。分岐点に立っている今こそ、後で困るような言及はできない、と考えているに違いない。
むしろ、彼女は大統領任期の制限に違反するという形で一線を越えてしまった。彼女の責任は任期満了で全うされるものではない。彼女が支持する候補者であろうがなかろうが、次期政権への平穏な移行に尽力するのが大統領の最終任務だ。(7月29日・インクワイアラー)