「日刊まにら新聞」ウェブ

1992年にマニラで創刊した「日刊まにら新聞」のウェブサイトです。フィリピン発のニュースを毎日配信しています。

マニラ
33度-25度
両替レート
1万円=P3,780
$100=P5880

3月8日のまにら新聞から

「第三者の助けが必要」 路上生活家族の生計を疑似体験

[ 1951字|2024.3.8|社会 (society) ]

NPOが連続講座「フィリピンのストリートチルドレンのために私たちができること」の第2回をオンライン開催

NPO法人アジア・コミュニティ・センター21によるオンライン上での連続講座第2回目=5日

 NPO法人アジア・コミュニティ・センター21(ACC21)は5日、フィリピンや国際協力に興味を持つ若者・社会人向け連続講座「フィリピンのストリートチルドレンのために私たちができること」の第2回をオンライン開催した。初回に続き、高校生や大学生、大学院生、NGO関係者ら20人近くが参加した。

 「ストリートファミリーの生活を体験しよう」 と題した今講座では、三つのグループに分かれ、より路上の実態を知るために、架空の家族を想定、月間の家計計算に取り組んだ。

 ACC21の伊藤道雄代表理事は冒頭で、架空の家族を想定するにあたり、実地で複数の家族に聞き取りを行ったACC21比職員のジュード・ナティビダットさん(26)を紹介。昨年まで首都圏マニラ市のバランガイ(最小行政区)青年評議会委員長を務めてきたナティビダットさんは、6歳から8年間、マニラ湾やロハスブルバード大通り沿いでの路上生活を余儀なくされた。

 後にACC21の現地カウンターパート「チャイルドホープ」との出会いが、ナティビダットさんにとって大きな転機に。2016年には来日機会にも恵まれ、全国の青年指導者として比政府から表彰された。現在はチャイルドホープで働きながら、ACC21の活動にも携わる。そんなナティビダッドさんも講座の前半で加わった。

 アクティビティーのはじめに日本における一週間の支出を参加者が発表。ある男子学生は、交際費を除いて週の食費や交通費は約7千円だとし、ACC21でインターンをしている女性は、日々の食費を千円とし、買い物を控えれば、週5日の交通費とで1万円と算出した。

 ▽使途に試行錯誤

 比の架空の4人家族の一員として家計簿を作成するグループ活動では、月収総額2万800ペソで、「父親」のゴミ拾いが1万3000ペソ(3万4500円)、「母親」のタマネギ販売が7800ペソ(2万1060円)だった。その額を予め決まった分野別にグループ内でディスカッションしながら再配分した。自身を「大学進学を目指す高校生」と仮定し、カツカツの生活の中でいかに進学費用(貯金)を捻出するか、各自四苦八苦していた。

 あるグループの発表では、食費4人分を1万2000ペソに抑え、養育費を500ペソに、衣服・美容院200ペソ、衛生用品など日用品800ペソ、学費2千ペソ、携帯代・通信費1130ペソなどと設定。そこから貯金として370ペソを捻出した。「これでは進学費用を貯めるのに何年かかるか」との声も聞かれた。別のグループでは高校生の「自分」が通学を諦めて働き手として加わり、収入を2万8000ペソに増額、タッチスクリーンを使用して通信教育を受講するとし、8500ペソを貯金に回すといった方策を考案していた。

 ▽多くの感想や気づき

 活動後、「最低限の生活をしなければならないという意識が悲しく、自分の生活との差をとても感じた」「結局子どもたちも働くことが避けられないのでは」との感想が聞かれた。学費と交通費が支出トップを占めたことで、「子どもを学校に通わせるより、家族が良い食事をした方が人生楽しいのでは」との見方もあった。

 一方で「この状況で生活していくと貧困のスパイラルで、生活を維持していくだけの意識から抜けられず、第三者の助けが必要」「今自分は自由にお金を使えていて、この状況が幸せなことだと改めて感じた」との声も挙がった。

 反対に、このような生活が一般化している比人にとって「普段から苦しいと思っているかは分からない」「両親ともに月にこれだけ働けていることは驚き。中には一日中座っているだけの父親やアルコール中毒、家庭内暴力も多い中、このお父さん、お母さんはがんばっている」との見方も。また、ある男性は「育ち盛りの子どもが食べられないのは、本人も外から見ていても辛いと思う。やはり食費は大事」との思いを伝えた。

 最後にACC21の広報・比事業を担う辻本紀子氏は、段ボールで生活しながらタマネギを売る女性や、50ペソでご飯の上に少量のおかず、スープをかけた食事で日々をしのぐ家族ら、インタビュー相手の実情を写真と共に伝えた。「両親が揃っていない家庭、夫が結核などの病気でしばらく仕事ができない、刑務所に入っている」など多様なケースがあることにも触れた。

 伊藤代表も、自身がマニラ湾沿いでかつて出会った路上の家族の生活の惨状を紹介。今回のアクティビティーを踏まえ「十分な食事も摂れない中で、はたして勉強へのモチベーションが起きるのか。みなさんの議論を聞いていて興味深かった」とも振り返った。次回は4月4日に「ストリートユースと交流しよう」と題した第3回が予定されている。(岡田薫)

社会 (society)