ドゥテルテ前大統領（79）は11日午前、「麻薬戦争」下で発生した超法規的殺害問題が「人道に対する犯罪」に抵触していたとして逮捕された。比当局によると、同日早朝、国際刑事裁判所（ＩＣＣ）が同氏への逮捕状を発付したことを国際刑事警察機構（インターポール）マニラ事務所に伝達。インターポールはそれを受け国際逮捕手配書を出した。ドゥテルテ氏が香港からマニラ空港に到着したところを比当局が拘束。空港はマルビル国家警察長官が警官隊を率いる厳戒態勢下に置かれた。

　ドゥテルテ氏はその後、首都圏パサイ市のビリヤモール空軍基地に留置された。同日夜９時ごろ、同氏は基地内の航空機に連行された。オランダ・ハーグに引き渡されるとみられる。

　拘束の一部始終は同行していた家族らによって撮影され、テレビで放送された。拘束前は「私が同意せず、お前たちが白人の側につくというのなら、お前たちは私を殺さなくてはいけない」と抵抗する様子が、拘束された施設内では、「私がここにいる法的根拠を今すぐ示せ。私は自分の意志でここに連れてこられたわけではない」「（自分を拘束した根拠となる）法は何か、そして私が犯した犯罪とは何か」と警察職員を問い詰める姿が公開された。　ドゥテルテ氏は「もう（ＩＣＣに）加盟していないのに、なぜ私をその国際機関に連れて行くのか」と述べ、国内での裁判を求めた。

　ドゥテルテ氏と同行している末娘のベロニカ・ドゥテルテさんは、自身のインスタグラムで、「父はビリヤモール空軍基地に不法に拘束されている。父は医療処置を受ける必要があるのに、許可してくれない」というコメントを、横になるドゥテルテ氏の写真と共に投稿した。

　首都圏警察本部によると、同本部は警戒レベルを引き上げ、マニラ空港などに４２６人の捜査員を配置した。一方、ドゥテルテ氏の支持者たちはビリヤモール基地前に集まり、逮捕への抗議と、同氏支持の声を上げた。

　▽正義は勝つという希望

　「超法規的殺害」の犠牲者遺族らで作る団体「ライズアップ」は同日に声明を発表。「待ちに待ったドゥテルテ氏の逮捕は、最後には被害者への正義が勝つという希望を与えた」と歓迎。その上で、裁判が開かれるオランダ・ハーグへの迅速な引き渡しと、迅速な裁判の開始を求めた。

　社会民主主義政党アクバヤンのダビド代表は同日アテネオ大で開いた集会で、「国民は正義を急いで要求している。ドゥテルテ大統領のハーグ行き片道切符は、遅滞なく届けられなければならない」と訴えた。

　▽目的は次期大統領選

　サラ副大統領は声明で「われわれの政府は外国勢力に屈した。これはわが国の主権と独立に対する侮辱だ」と非難。「彼は今夜にもハーグに強制連行されようとしている。これは正義でなく、迫害だ」と述べた。

　前政権で大統領法律顧問を務めたパネロ弁護士は「比はＩＣＣを脱退しているため、ＩＣＣは比へ司法管轄権を有せず違法だ。拘束に動いた公務員は刑事責任を問われる」と非難。「警察はドゥテルテ氏の弁護士に対し、空港で面会することを許さなかった」とし、「旧マルコス政権による戒厳令下でも弁護人との面会はできた。「この国は独裁政治に向かっているどころか、既に独裁政権が存在しているようだ」とした。その上で、ドゥテルテ氏逮捕の理由は「２０２８年の大統領選に向けた行動だ」と主張した。

　ドゥテルテ前政権では、麻薬捜査中の「超法規的殺害」が国際的な人権問題となり、オバマ政権下の米国との関係冷却化の一員ともなった。前政権期中の麻薬捜査中の容疑者殺害件数は、政府発表でも６２５２人に達する。各人権団体は、ダバオ市長時代も含め殺害された人は２～３万人に上ると推計している。（竹下友章）