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純粋な協力が「呉越同舟」実現 JICA坂本威午前所長インタビュー(下)

2025/3/29 社会
CAB10周年シンポジウムの事前打ち合わせ=24年8月、東京JICA本部(坂本前所長提供)

JICAフィリピン事務所の坂本威午前所長インタビュー(下)。不透明感を深めるミンダナオの和平について語る

昨年9月に最高裁がバンサモロイスラム自治地域(BARMM)からスルー州を除外する判断を出して以降、ますます不透明感を強めるミンダナオ和平問題。同問題に対しても大きな役割を演じてきた国際協力機構(JICA)は、この不透明な状況にどう対応し、どのような和平と開発の形を目指して支援するのか。JICAフィリピン事務所の坂本威午前所長に話を聞いた。

(聞き手は竹下友章)

 ―昨年は、BARMMからスルー州が除外され、自治政府発足選挙が5カ月延期された。特にスルー州はBARMMの中でも開発が進んでいないエリアだと思うが、ミンダナオ和平に大きく寄与してきたJICAとして、この状況にどう対応するのか。

 (坂本前所長)われわれは政治的に中立だし、国際協力機関として開発と安定への貢献に尽力するのみ。選挙が円滑に実施されるか、心配しながら見守っていますよ、正直。特にスルーは州知事が、モロ・イスラム解放戦線(MILF)のムラド議長=前暫定政府首相=の対抗馬一番手と目されていた。スルーが入る入らないで、 MILF率いる統一バンサモロ正義党(UBJP)の選挙動静も変わり得る。だけど心配してもしょうがないので、われわれはできることをやる。

 われわれの協力のキーワードは「平和の配当を全ての人々に」で、先月もムラド氏に直接説明してきたところ。「全ての人々」には、当然スルーも入るべきだろう。

 もう一つのキーワードは「分断と対立のないBARMM」というもの。安全対策上、われわれはBARMMではコタバト周辺しか行けないなど色々制約もある。コタバト周辺以外の人から「あそこばっかりひいきして」と見られるのは好ましくない。

 協力のやり方を誤ると、BARMM内でも格差が拡大する可能性もある。例えば、技術移転を促すワークショップをコタバトでやるにしても、南マギンダナオ州など他の地域からもちゃんと人を招くとか。また、JICAが行けない場所にはローカルコンサルタントや国際機関とタッグを組んで代わりに行ってもらうとか、工夫をしている。

 私は、実は以前赴任したイラクでそれやっていました。ちなみにBARMMは外務省の警戒レベルはせいぜい2とか3。私はかつてレベル4のイラクで勤務していたが、カウンターパートの人などに写真を撮ってきてもらい、動画を送ってもらって、遠隔でも出来ることを工夫していた。

 分断と対立を深刻化させないのが大原則で、そのためにはスルーも含めた全ての人々に平和の配当、ロー・ハンギング・フルーツ(比較的早期に達成できる効果)を見せるような工夫をしようという話は、比政府側にもいつも言ってきていた。ガルベス和平・和解・統合担当大統領顧問にも言っていて、これはまだ詳細不詳だけれども、方向性としてはBARMMへの補助金等は引き続きスルー州も配慮されるものと理解している。もちろん、JICAが動かしているなんて、おこがましいことは言わないが、でもある種、われわれの忠言を真摯に聞いてもらっている一つの事例だと思う。

 いまフィリピン全国から毎年数百人単位でJICAの研修目的で日本に呼んでいる。わたしの着任時、そのうちでBARMMの人はだいたい5人くらいだった。というのもBARMMの人たちは申請準備に慣れていなかったりしたから。ただ、その後、コース設定の段階から、BARMMの人たちのニーズ・対応なども優先的に考慮・工夫して、 この3年間でBARMMからの研修参加は6倍に増えた。このことも、先月、当時のムラド暫定政府首相に伝えたら大喜びしていた。なお、その6倍に増えたのはMILFの人たちだけではない。オールBARMMです。

―バンサモロの各派との関係は。

 最初に独立運動を始めたモロ民族解放戦線(MNLF)の初期からのリーダーであるミスアリ氏や、セマ氏などとも私含めJICAは良い関係を持てている。22年9月に、初めてマルコス大統領がBARMMに行ったとき、MNLFミスアリ派、MNLFセマ派、MILFの各代表、そして大統領の4者が同じ壇上に上がった。これは「超」歴史的瞬間。その人たちとはみんな、私やJICAは良い関係を持てている。逆にJICAという外部の第三者がいるから、彼らが一緒に話せる、協働できる、ということもあるかもしれないし、そういう役割を果たせたらいい。

 コタバト市の南側に南マギンダナオ州があって、やっぱり貧困など開発ニーズが高い。でも、治安制約上、なかなか行けない。だけど、そこの人たちとのパイプもちゃんと作らなきゃいけない。

 そこの州知事がマングタダトゥさんというMILFではない女性。まるで興信所を使っているかのように、彼女がマニラに出張で来るタイミング・情報をキャッチして、私はその時マニラにいなかったので、とりあえず「突撃しろっ」と言って、うちのミンダナオ担当次長に会いに行かせて、ランチもオファーして、近しく懇談してつながりを作った。

 マングタダトゥ知事の配偶者は技術教育技能開発庁(TESDA)の前長官で、彼ともJICAは良い関係を持っているので、「今度奥さんに声かけておいてよ」というのも効く。こんな工夫も欠かさない。

 他にも、去年バンサモロ包括和平合意(CAB)の10周年記念シンポジウムを東京のJICA本部で主催した。そこにコタバトから、バンサモロ暫定自治政府のムラド首相=当時=やイクバル教育大臣兼政府間連携機構(IGRB)共同議長ほか多くの閣僚を、マニラからは和平・和解・統合大統領顧問室のガルベス大統領顧問、ヤノ比政府和平履行パネル委員長やパガンダマンIGRB共同議長兼予算管理大臣などの錚々(そうそう)たるメンツをお呼びした。

 こうした「呉越同舟」的な場の設定はJICAだからできた側面もあるだろう。今回の肝はJICA会議室で行ったシンポジウムの事前打ち合わせ。そこに双方のリーダーや閣僚たちが一堂に会した。国内の両者をつなぐ会議体もあるにはあるけど、彼らはなかなか国内で会えていなかった模様。だから「坂本は外で待っているから、腹割って話してよ」と言って、双方で話し合う機会を提供した。

 アキノ元大統領とムラド議長との初会談が、日本政府の仲介で2011年に成田で実現し、それまでの戦闘から対話・共存に舵がきられた歴史があるが、今回のは「ミニミニ成田会談」ともいえるものだったのではないか。こうしたことも、Hidden Agenda(隠された裏の意図)をもたない、純粋な協力姿勢による、一部の勢力のみに肩入れしないJICAだからできたことだったのではないか。

(終わり)

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